06

「私達が帰るのと入れ替えで、また違う会社がこのホテルに新人研修で来るらしいよ」

「違う会社?」

「ほら、なんだっけ。えーっと」



午前9時。朝食会場から戻って来た私と柴崎は、ドレッサーにて各々化粧をしながら会話を交わしていた。ちなみに同室の後2人はまだ会場に行っていて戻って来ていない。それまでは部屋のテレビを見ながらグダグダと話していた私達だったけど、ふと柴崎が新しい話題を切り出してきた事によって話の流れは一変した。

柴崎が頭を捻らせて思い出した会社の名前には、私も聞き覚えがあった。そこはうちの会社とは親交が深く、かつインテリア業界ではトップ争いをしているという、いわば良きライバル的な存在の会社だった。その会社が、なんでも柴崎の話によると今日この後の時間、このホテルに新人研修で来るとかなんとか。



「ライバル会社が同じホテルで研修なんて面白いよねー」

「とはいっても私達は昼で帰るけどね。ていうかなんで柴崎そんな事知ってるの?」

「入口の団体予約のボードに書いてたの!」

「へー」



やけに楽しそうに話す柴崎を見て、どうせまた出会いでも求めてるんだろうなぁと半ば呆れる。昨日はあれだけ落合さんに一直線だったというのに、人間って貪欲ねー。そう完全に他人事気分で柴崎のすっぴんを横目で見つめる事数秒後、バチッと目が合い、そしてにっこりと微笑まれた。なんか柴崎と一緒にいると、こっちの毒気が全部削ぎ落とされていく感じがする。実際、そんなはずはないんだけど。



「そういえば豊崎、昨日柳君と何話してたの?」

「え?柳?」

「私が気付いてないとでも思ったー!?柳君と良い感じだったじゃん!ねねっ、正直な所豊崎は誰狙ってんの!」

「それ、昨日の夜部屋に戻って来てからずっと聞いて来てるよね」

「だって気になるもーん」



ポンポンと話題が変わるテンポの良い会話に、あくまでも愛想笑いで返していく。しっかし、第三者から見て昨日の私と柳の雰囲気が良い感じに見えたのなら、我ながら凄い演技力だなぁ。うんうん。

ビューラーで睫毛をぐいぐい上げつつ心の中では自画自賛を繰り返している私に、柴崎は横から終始恋愛話を持ち掛けて来た。でも残念な事に、私はその話題に微塵の興味も持てなかった。恋愛って、何だ。



***



「あ、豊崎だ」

「あ、不二だ」

「真似されちゃった」



化粧も着替えも終えて、講義を行うホールに向かっている途中、人混みの中から不二が姿を現した。柴崎はさっきたまたま会った落合さんの所に置いて来たから此処には居なくて、不二も誰とも行動していないのか1人だ。だから私達は必然的に2人で歩くことになる。



「白石とかは?」

「白石も柳も部屋が違うからね。同室の人達は用意が遅いから置いてきちゃった」

「不二って意外と容赦ないとこあるよね」

「そう?」



不二は確かに小柄ではあるけれど、それを物ともしない端正な顔立ちと上品なオーラで、周囲からの女受けは凄まじく良い。ていうか小柄なのが逆に好印象なのかも、白石と柳はイケメンで尚且つ背も高くて隙が無さすぎるから、中々女は気軽に話しかけられないみたいだし。

そんな風にまたつい始まってしまった他人分析をしつつも不二と内容の無い会話を交わしていると、私達の背中に重みが圧し掛かって来た。誰だ。



「おっはよー。お前ら朝からキラキラしてんなぁ」

「丸井か。おはよう」

「おはよ。丸井はいつもに比べてテンション低すぎ」

「早起きは苦手なんだよぃ」



目の下に大きなクマを作って話しかけて来たのは、いつもは元気なはずなのに今は物凄く冴えない顔をしている丸井だった。ダラダラと歩くその姿に私と不二は苦笑し、シャキッと歩くように注意する。



「あー甘いモン食いてー」

「朝食ビュッフェだったじゃない、食べなかったの?」

「俺はケーキが食いてーの!あんなフルーツだけじゃ物足りねーよ!」

「仕方ないよ。朝から胃に重いデザートなんか置いたって、需要は丸井しかないじゃないか」

「うるせー」



でも、まさか丸井が口で注意しただけで直るはずもなく、結局私達はゆっくりとした足取りでホールに入った。正直な所、講義なんか今更受けたって私が有能な事には変わりないから受けても意味が無い気もするけど、かと言って放棄する訳にもいかない。目標が無い事ってこんなにも退屈なのか、と改めて感じた。
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