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「それでは、これから新人研修の開会式を行います」



流石大手有名企業というべきか、たかが新人研修に使われるホテルも豪華すぎるのなんの。私は用意されていたパイプ椅子に座りながら辺りを見渡し、そんな事を思った。社員の中には私のように辺りを見渡している人や、退屈そうに話を聞いている人、期待に胸を膨らませている人、至って普通の人など様々な人がいた。そして、



「では、今回引率に来てくれた先輩方をご紹介します。初めに、商品開発課の方から自己紹介お願いします」

「商品開発課の忍足侑士です。1番皆さんと年齢が近いと思うんで、なんかわからへん事あったら気軽に聞いて下さい」



忍足さんも。…いや、なんで?実際彼が来るという事は風の噂で聞いていたのだけれど(なんせあの人は女に人気だ、あれだけ騒がれてれば嫌でも耳に入る)、この目で見るまでは信じたくなかった。でも、見てしまった以上もう信じるしかない。

ホール内に鳴り響いた盛大な拍手(勿論、主に女子から)を聞き流しつつ、私は前に立っている忍足さんを睨むように見据えた。ゴミのように人がわんさかいるこの状況で彼と目が合う事は無いけれど、絶対絡んで来るなー、死んでも絡んで来るなー、と精一杯の念を送る。



「どうしたの豊崎ー、怖い顔して」

「なんかコンタクトずれちゃって。ちょっと痛いというか」

「目薬貸そうか?」

「大丈夫、ありがとう」



あ、隣に柴崎が居るの忘れてた。私は咄嗟にもっともらしい嘘を吐いてその場をやり過ごし、表情を普通に戻した。背筋を伸ばして口角を上げて、と。

それからしばらくして、とりあえず私達は各自部屋に荷物を置きに行く事になった。忍足と丸井が先にホールから出て行くのを見送って、私も柴崎と一緒に席を立つ。柴崎は私と同じ部屋な事を相変わらず嬉しく思ってくれているのか、腕を組んで足早に歩き始めた。加えてキャッキャと騒ぎ出すものだから、男からの視線が凄いのなんの。美人系豊崎と可愛い系柴崎って感じですかー。



「目立っとんねー」

「あ、千歳」



高貴なカーペットが敷き詰められている廊下を歩いていると、後ろから千歳がぬっと顔を出して来た。その隣には千歳と同期っぽい男の人が何人か居て、下心見え見えな会釈をしてきたから軽く笑って対応してやる。あれね、千歳が隣にいると凄く廃れて見えるわね、可哀想に。



「豊崎は部屋何階なんね?」

「14。千歳は?」

「17。謙也達と夜に15階の共有ロビーで落ち合おうて話しとったとね、来ると良いたい」

「ん、りょーかい」

「千歳ずりーよ!豊崎さんが行くなら俺も行こっかなー」

「俺も俺も!」



更にその男達は、私の返事に便乗するようにそう言ってきた。うわー面倒臭いなぁ、と内心うんざりしていると、それまで何も喋っていなかった柴崎が突然クイッ、とスーツの裾を引っ張ってきた。だから柴崎に合わせるように少しかがみ、騒いでいる男達は放って置いて耳元を寄せる。



「豊崎の友達の中に宣伝課いるっていったよね?落合さんも来ないかな?」

「あ、そうだよね私紹介するって言ったもんね。よし、任せて」



少し照れ臭そうにしながら柴崎が言ったのは、この前話していた内容のものだった。そうだそうだ、ちょうど忍足と丸井も来るっていうし、ここは1つあの2人に協力してもらおう。

私は柴崎の頭を一度ポン、と叩いてから、千歳に「この子も一緒に行くから」と伝えた。どっちみちそこの騒いでる男共も来るなら、もう誰が来てもいいだろう。千歳も千歳で私と同じ考えなのか、「わかったばいー」と間延びした返事をして来た。それを聞いた所で14階に到着したから、私と柴崎はエレベーターから一足先に出る。



「やばいやばいっ、落合さんに連絡先聞けるチャンスかもー!」

「友達に絶対来てもらうよう言っとくよ。その友達には柴崎が落合さん狙ってる事バレても大丈夫?」

「うん、協力者になってくれそうならオールオッケー!」



なってくれそうも何も、忍足も丸井も男なんだけどね。まぁそれは会った時に言えばいいか。

さっきよりも更に騒ぎ始めた柴崎と一緒に、部屋の鍵であるカードを機械にスライドさせ読み込ませる。中に入ると他の2人はまだ来てないらしく、視界には高層ビルが見渡せる大きな窓が早速飛び込んできた。さーて、研修で何を学びましょうか。
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