つまらない日々だな、とは思っていた。



「あれだよねー、豊崎ちゃんはほんっとスタイル良いよね!」

「お前しょっぱなからそれはねーよ!」



下品な笑い方をする目の前の男達を一瞥した後に、隣で苦笑している女達と視線を絡める。無理矢理連れてこられたけど、やっぱり来なければ良かった、こんな頭の悪そうな集い。そんな事を思いながら1人でビールを淡々と飲み続ける。



「いやー今回の合コンは最悪だったね!体目的丸出し!」

「ほんっとなんで男ってあぁいう事しか考えないのかなー。確かに律子はスタイル良いけどさ!」



願い事が叶うなら何を願う?と聞かれれば、数を指定されない限り私は沢山注文するだろう。それはもう、図々しい程に。

まずは顔だ。スタイルだけはやたら良く育ったこの体は、清々しい程に顔面偏差値と距離を開けて行った。街で歩いている時に追い抜かされ、顔を確認されて残念がられるなんて事はしょっちゅうだ。子供の頃は男も女もこれをネタにして笑い飛ばしてくれたけど、大人になるとそうはいかない。“友達”という観点より先に“女”が入るからだ。建前、虚言、お世辞のオンパレード。だから私はこの体に見合った顔になりたい。

後は、金持ちになりたい。男女共に好意を持たれるような人柄になって、人間関係に不自由しないようになりたい。頭の悪い両親と離れて1人暮らしをしたい。料理が出来るようになりたい。色気が欲しい。あ、新しい服も欲しいかな。とまぁその他諸々、言い出したらキリが無い。



「じゃあ私こっちだから」

「あ、うん!じゃあねー!」

「また明日会社で!」

「うん」



でもそれは、願うだけならタダだから思っていただけで、実際にそんな事が有り得るはずは無いというのはちゃんと頭の中で理解している。全てはただの願望、妄想だ。

そう、そのはずだった。はずだったのに。



「ちょっとそこのお姉さん」

「(また背後からか)何ですか、っ?」

「その願い達叶えてあげてもいいけど、どう?」



───もしその願望が全て叶った時、人はどうなるんだろう。



「…何言ってるんですか?酔ってるんならさっさとお帰りになられた方がよろしいかと」

「酔ってるように見えるー?」



背後から話しかけて来た男は、振り返ると思ったよりも近距離にいて一瞬体が震えた。そして、その笑顔に寒気がした。



「叶う訳無いじゃん、願いなんて」

「それが叶うんだって。お姉さんの我儘で傲慢で欲張りなその願い達が、一気に叶っちゃうの」

「はいはい」



男の戯言に付き合っている暇があるならさっさと帰りたいと思った私は、そのまま薄暗くて人気の無い帰路をヒールを鳴らしながら歩き続けた。それでも男は立ち去る様子が無くて、特に襲われるだとかそういう気配は感じないのだけれど、兎に角不気味だと思った。だから私は仕方なく、



「じゃあ何をしたら叶うの?」



と聞いた。すると男は、



「1回死んでくれたら」



そう、至極笑顔で言い放った。…くっだらな!一瞬にしてやはり変人の戯言だと理解した私は、やれるもんならどうぞ、と捨て台詞を吐いて再び歩き出した。とんだ時間の無駄だ、それに尽きる。



「本当に?じゃあ、遠慮なく」



でも、刹那。

私の左胸からは、大量の血が流れ出て来た。

ガン、と鈍い音が鳴り響く。時が、思考が、心臓が、止まった。




鉄線で区切られた

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