04

目が覚めると、フカフカと寝心地の良いベッドの感触が全身を包んだ。昨日はあれから調子に乗って飲み過ぎたのか少し頭がズキズキするけど、なんせ今日は至福の土曜日だ。早起きする必要は無い。その事に幸せを感じながら寝返りを打つと、すぐ隣から規則正しい寝息が耳に入った。耳どころかあまりにも至近距離すぎて顔に息がかかるくらいだ、それも若干お酒くさい。



「え」



ていうかなんで息がかかるの?と疑問に思った私は、恐る恐る目を開けてその息をしている人を確認した。するとそこには、



「あー眠ー。あ、起きたの」

「…いやいや、なんで?」



気怠げに眠い目をこすりながらあくびをしている、幸村がいた。しかも幸村は下半身までそうかは知らないけど、布団から出ている部分を見る限り裸で、段々と眠気に侵されていた脳が冴えて行くのを感じる。待てよ、幸村が裸ってことは、うわやっぱり。



「ごめん幸村、私昨日の事なんも覚えてないんだけど、もしかしてやらかした?私達」

「どうだと思う?」



まさかとは思いつつ布団の中を覗き見てみると、裸では無いもののノーブラにキャミソール、更に下はパンツだけというなんとも節操の無い格好をした体がそこにはあった。その時自分の体見るついでに幸村の体も見てみたけど、彼はパンツ1枚というこれまた際どい格好。どっちもどっちか。

で、とりあえず状況を把握する為にそう問いかけてみると、幸村は片肘をついて私を見ながら、何故かとても楽しそうに質問をし返して来た。どう頑張っても読めない会話の流れに、自分でも珍しく動揺する。



「冗談、ヤッてないよ。流石に何も触らなかったって訳じゃないけど」

「幸村のそういう所嫌いじゃないよ」

「ありがとう」



嫌味として言ったのだけど幸村相手にそれは通用せず、しまいには肘をついていない方の手で私の髪を梳いてきた。何このピロートーク。

しばらく無言でそうしていると幸村はふいに昨日の事を説明し始めた。なんでも、昨日は私だけではなく皆も結構酔っ払って、赤也君なんかは桑原にタクシーで送ってもらわなきゃ帰れないほどまでに潰れたらしい。私は潰れてこそはいないものの、酔いの回りが一定ラインを超えると記憶が無くなる習性はしっかりと前の私から引き継がれているようで、そしてそんな不安定な私を送るのは必然的にマンションが同じの幸村になる。幸村は私を抱えながら家の玄関先まで送り届けてくれたけど、いつまで経っても離れようとしない私にムラッと来て、ベッドまで連れ込んだのだとか。ちなみにこれは幸村が言った言葉を丸々引用してる。肝が据わっているというか容赦無いというか。



「正直あんなの、最後までヤられてもおかしくない状態だったからね。実際俺もその気だったし」

「じゃあ何で止めたの?」

「たまたまこいつが電話を掛けて来たからさ」



たまたま、という部分を強調して、幸村はサイドテーブルにあった自分のスマートフォンを手に取り、少し操作をした後に画面を私に向けて来た。画面には着信履歴が映し出されている。だから素直に履歴リストに目をやるとそこには“柳蓮二”、そう、柳の名前がズラーッと並んでいた。予想外に親しい人物だった事とその件数の多さに若干驚き、目を瞠る。



「柳が?」

「そ。最初は無視してたんだけど何回もうるさいからさ、仕方なく出たんだ。そしたら蓮二、開口一番なんて言ったと思う?」

「さぁ、わかんない」

「酔っている女を襲うような下衆にはなってないだろうな、って」



柳が言ったというその言葉は更に予想外で、私の口はただただぽかんと開くばかりだ。ゲス、って、柳でもそんな言葉使うんだ。個人的に柳はそういう汚い言葉は使わない感じがしたから、人ってわからないなぁ。そう私が心の中で若干お門違いな事を考えていると、幸村はベッドから出ていそいそと着替え始めた。



「それで何か興醒めしたっていうか、目も酔いも覚めたっていうかね」

「友達の言葉で抑えられるなんて、幸村の理性って大したもんだね」

「お前、そういう事その格好で言うもんじゃないよ。まぁ理由はそれだけじゃないけど」



家が隣だからいちいちちゃんと着替えるのは面倒なのか、幸村はスラックスを履きYシャツを軽く羽織った程度の格好のまま、荷物を持って玄関の方へ行った。それに合わせて私もベッドから出て、玄関まで幸村を見送る。ちなみに私の格好はさっきと同じで、ノーブラにキャミソールとパンツという姿だけど、この格好のまま見送りに来たのはわざとだ。ただ幸村の反応を楽しみたいから、それだけ。でも、そうやってからかうつもりでやっただけなのに、逆に幸村が何やら含みのある言い方をして来た。だから素直にどういう事、と詰め寄る。



「何か豊崎って、秘密が結構あるみたいだからさ」



顎をクイッと持たれ、至近距離で言われたその言葉に一瞬身震いする。幸村の目は確実に何かに勘付いていて、私はその目から逃げるように視線を逸らした。



「安心しなよ、別に脅して聞こうって訳じゃないし。そのうちね」

「幸村怖いんだけど」

「それより、化粧落ちかかってるけど大丈夫?」

「今更でしょ」

「そうだね。例えそんな顔でも豊崎は綺麗だよ」



本気なのか冗談なのかよくわからない言い方をした幸村を、次は目を逸らさずにジッと見据えてみる。すると幸村は目を閉じて顔を傾けて来たから、私もそれに応えるように目を閉じた。重ねるだけだった唇は数秒後に深いものになりそうだったので、その前に自分から体ごと離れる。



「嫌よ、酒臭いままディープなんて」

「言うねー。考えてみれば俺も嫌だけど。それじゃ豊崎、また」

「うん」



バタン、と閉じたドアの鍵を閉めて、とりあえずシャワーを浴びる為に風呂場に向かう。柳が何を思って止めてくれたのかはよくわからないにせよ、本人にも言った通り幸村の理性は大したものだ。前の私ですら男と2人きりで泊まりなんかしたら自然とそういう流れになってたのにまさか未遂で済まされるとは。ある意味生き地獄っちゃあ生き地獄だろうけど、ていうか生殺しっていうのかしら?どーでもいっか。

酒や煙草の匂いが入り混じった体を綺麗にしながらふと鏡に目をやると、体の数か所に赤い印があるのに気付いて、それを見て思わず盛大に噴き出した。私なんかに証つけてどーすんだっつーの。
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