幼い頃の私は、子供だというのに喜怒哀楽の感情表現が下手糞でそれはそれは可愛くない子供だった。スタイルと顔の落差がコンプレックスになり始めた思春期は特にそれに磨きがかかって、屁理屈と言い訳を言おうものならばプロ並だった。友達はいなかった訳じゃない。でも、人から好かれる性格だったかと問われればそれは絶対有り得ない。

結局、人は変わらない。表面上が変わろうが、顔が変わろうが、人格そのものが変わろうが、根本的な性格は変わらない。私は自分の欲しい物全てを手に入れたけど、それはこの歪んだ性格に拍車をかける一方だった。

新しく生まれ変わったからにはこの人生を楽しく、なんて呑気な事は口が裂けても言えなかった。自分が一体何なのかを問い詰めても答えは一向に出ず、それでもこの前やっと掴んだかと思えばそれは想像とはかなりかけ離れていた。いや、良い方向に期待してた訳じゃないけど、それにしてもあれは無い。



「ほな、適当に座ってな!」



金持ちになりたい。男女共に好意を持たれるような人柄になって、人間関係に不自由しないようになりたい。頭の悪い両親と離れて1人暮らしをしたい。料理が出来るようになりたい。色気が欲しい。新しい服も欲しい。エトセトラ、最初に思っていた願いをふと思い出してみる。

 馬鹿らしい。

白石に連れて来られた同窓会に着くなり、周りの喧騒が一層耳につくようになった。先日会った跡部なんてすっかり私に怯えきっていて、きっちり1番離れた所に座っている。



「どうした?豊崎」



そう言って顔を覗き込んでくる柳は、いつも私を最優先にして色々頑張ってくれてたっけか。こんな私に唯一本気で惚れ込んだ人。哀れな人。でも、もうそんな事もどうでも良い。全部どうでも良い。

ふっと自分でも表情が変わったのが分かった。その時に越前さんを見ればやっぱり不安そうに私を見ていて、どうせ隠す事も無いのでそのまま無表情でいる。みるみる顔色が悪くなっていく越前さんが、申し訳ないけど笑える。

この中の何人と口約束をして、果たせなかっただろうか。ほんの少しでも平凡に過ごせた間は中々楽しかったと思う。短期間だけに焦点を当てればそれなりに良かったのかもしれないけど、総合的に見たらやっぱり意味の無い空虚な人生だった。



「ねぇ、いつまで続けるの?これ」



私の声は驚くほど貸切の室内に響いて、皆はぴたりと動きを止め私に視線を送る。何十人ものイケメンの視線を独り占め、なぁんて。



「もういいよ、やめようよ」

「豊崎ったらもう酔ってるの?」



茶化すように笑って来た幸村を皮切りに、何人かは同調するように相好を崩している。でも、何人かは暗い表情で俯き加減。意外と突いたら簡単にボロを出すもんだ。

私に絶対的な好意、信頼を持っていた人、不審を抱いていた人、傍観者、この中には色々な人がいた。でも発信源は一緒なのだから、行く末だって分かり切ってる。



「ようやく自分の事が知れるんやな」

「ちょっとちょっと、皆どうしちゃったの」



忍足さんがいつになく無表情でそう言えば、キヨが焦ったように仲裁に入る。キヨだって私を探ってた人の一部だった癖に白々しい。

豊崎、やめてくれ。普段ではありえない悲しげな表情で手を掴んで来た柳は、もしかしたら全部知ってるのかも?いやそれは無いか。さてそろそろ本題に入ろう。



「此処が作り物だって気付いてる人は何人いるの?」

「あの、律子さん、俺全然着いていけないッス」



私の問いに(的外れな)答えをくれたのは赤也君だけだった。他の人は皆だんまりを決め込んでいて、聞きたい答えが中々出てこない事に苛立ちが募る。



「豊崎が知ってしもたんなら、終わりやなぁ」



長い沈黙の末にようやく口を割ったのは白石だった。まさか彼が知っていたとは少し意外で苦笑がもれる。



「白石は徹底的に知らないフリをしてたんだね」

「突っかかったってええ事無いやろ」

「まあ、色んな奴から話を聞いてそろそろ潮時だと思ってたぜよ」

「仁王も?奇遇だね」

「だがお前だけには気付いてほしくなかった」



どうやらきっちりと気付いているのは白石、仁王、柳、の3人だけのようで、他の人は何が起こってるか分からないという風に顔を顰めていたり、相変わらず暗かったり。



「やっぱり律子ちゃんは、最初から此処に来なかった方が良かったんだね」

「おいジロー、お前何言って」



お、後ジローもか。主人公補正がかかってる越前さんもてっきり知ってると思ってたけど、どうやら彼はただ巻き込まれただけみたいだ。未だに気分が悪そうで顔なんてもう真っ青、ついでにジローに話しかけてる跡部もまさに顔面蒼白。でもそんな表情を浮かべているのは彼らだけじゃなく、私は最後に全員の顔を見渡した後に、鞄から持ってきていたナイフを取り出した。



「私もそう思うよ。下手な事望まなければ良かった。という事で、お別れしようか」



そしてそのまま左胸に突き立てる。
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