「流石じゃのう」



終業後。私は今、本当は先週来る予定だった展示会に柳、不二、白石、仁王と共に来ている。優秀作品なだけあって他の展示品よりも明らかに良く出来ているし、仁王が本気で感心したように呟いたので私達も満足げに笑った。



「頑張った甲斐があったね」

「謙也と財前も見に来てくれたらしくて、久々にあいつらから褒められたわ」

「光君が褒めてくれるなんて本当に珍しいんじゃない?」



私達が雑談している間でも、仁王は顎に手を当てながら真剣にそれらに見入っていた。私達だけのじゃなくて他の作品も食い入るように見てる所からして、相当内装やインテリアに興味があるんだろう。自分の店を持っているだけの事はある。加えて、この企画は私達の会社だけでなく、都内のいくつかの会社と合同で開催されたから見応えもバッチリだ。



「仁王の奴、いやに真剣だな」

「柳も思う?近々リフォームでもする勢いだよね」

「1年ちょっとでリフォームとか金ありすぎやろ」



だってこの世界ですから。



「何勝手に話しとるんじゃ。流石にまだせんよ」

「聞こえてたんだね」



そこでようやく仁王は私達の輪に入って来て、苦笑しながら言った言葉には不二が返事をする。対して仁王は「ただ」と再び口を開き、私達は話の続きを待つ為に彼を見つめる。

 ちと、見知った名前があっての。

促されるように逸らされた視線に従い、8つの目は1つの掲示板に向けられる。他会社の作品のようだけど羅列された名前に見覚えは無く、3人もよく分からないといった風に眉根を顰める。



「あの店を立ち上げる時、この人からアドバイス貰ってたんじゃ。叔父の知り合いでの」



仁王が指を差したのは、実際にコーディネートをした社員の名前では無く、その会社の社長の名前だった。全ての作品には社員の名前に加え会社名、社長名が記載されていて、でも後半2つは字が小さいからよく見つけたなと思う。

田中和雄。特になんの特徴も無い名前で、勿論見覚えは無い。



「しばらく休んどったんだが、復帰したみたいでホッとしたなり」

「ご病気か何かか?」

「娘さんに不幸があってのう。ちょうど俺が店を開いた直後ぐらいだったから、未だに来店してもらえてないんじゃ」



―――ちょっと待てよ。

柳と仁王のなにげない会話を聞いて不二と白石は気の毒そうに顔を歪め、比例するように私の顔もどんどん歪んでいく。

娘。不幸。仁王が店を開いた直後。でも恵の名字は榊原で、仁王の助っ人は田中だ。決定的な相違点があるからまだ保てているものの、これで名字も一致となったら今冷静を装える自信は無かった。



「ほな、近々連絡取ってみいや」

「ん。湿っぽい話してすまんの、次行くぜよ」



話題が切り替えられたのを良い事にさりげなく1番後ろに移動して、今の表情を見られない為に顔を俯かせる。とはいえこの人達がすぐに気付くのは当たり前だから私は数秒で顔を上げ、いつものように笑顔を繕った。

もうそろそろ無関係だとシラを切るのも潮時かもしれない。もし佐渡の言っていた恵の死に方が本当なら、奇怪事件としてニュースに載らないはずがないだろう。これは帰ったら調べるべきか。



「他の作品も良いのばかりだね。この中で僕達のが選ばれたっていうのは結構自慢できるかな」

「あぁ、自信を持っていいと課長も言ってくれたしな」



でも、この世界で私は何でも出来るはずなのに、この事に関わると物凄く不安定な気分になるのは、何故だろう。
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