そうか、あの2人から私が産まれたのか。火葬場に出棺されていくそれらを見ながらそんな事を思い、揃いも揃って辛気臭い顔をしている親戚の真似をして、私も眉を顰め下唇を噛み締め、あたかも泣くのを我慢しているかのように繕う。いいじゃんそれくらい、現に親戚だって皆そういうフリをしているだけだし。

その事は葬儀中の態度で良く分かった。あそこまで人里離れていた場所に住んでいたのだから、近所はおろか親戚との関わりもさほど無かったのだろう。よく葬式場で聞くすすり泣きの声は、勿論自分も含め一度も聞かなかった。それでも落ち込んだ素振りでいる事を心掛けていたから、周りはショックすぎて泣けていないとでも解釈してくれただろう。

花を添える時に見た両親の顔は、私と違って質素な造りをしていた。そりゃそうか、私はただのコピーだし。



「気丈に振る舞わなくて良いのよ、悲しい時は沢山泣きなさい」

「はい、ありがとうございます」



昨日私に心配の電話をかけてきたこの人、(仮)叔母の民子さんはそう言って私の背中を静かに叩いた。民子さんは薄ら寒い振舞いをする周りに比べたら、割と本気で今回の訃報を悲しんでくれているようだった。両親に思い入れがある云々よりもただ単に慈悲深いのだろう。だから私も弱々しい笑みを浮かべる。



「まだ捕まっていないんでしょう?犯人」

「えぇ、こんな田舎ですから。家政婦さんがいなかったら発見はもっと遅くなっていたと思います」



その家政婦さんも火葬場までは来ずに、葬儀だけ出て帰って行った。ほらやっぱりそんなもんだ。それに、今回父が遭った事故はひき逃げだったみたいだけど、どう考えたってこの流れからするとその犯人は捕まらない事くらい目に見えている。私の知らない所で起こった事は、私にも世間にも分かりえるはずがないのだ。知ってるのは恐らくあの男だけで、そういう箇所は割り切らなきゃやっていけないとこの1年で学んだ。でも、何の為に殺したのかっていうあたりは少し気になる。私に知られちゃマズイ事でもあったのか。



「そういえばさっき来る時に木陰で若い男の人が2人いたのを見かけたけど、律子ちゃんのお友達か何かかしら?」



とそこで話を変えてきた民子さんに、まるでシャボン玉が弾けたような感覚が私を襲った。2人の男?1人ならまだ分かる、完全にあいつだ。でも、2人って誰?式には若い男自体見かけなかったし、2人もいれば尚更目立つに違いない。というか、私の目の届く範囲で起こった事を見逃すはずがない。



「えぇ、同じ会社の同期です。心配してくれたみたいで」

「まぁそう、頼もしいわね」



しかしそこで動揺しては民子さんにも不思議がられるので、私は少し間は空いてしまったものの咄嗟の嘘でその場をやり過ごした。火葬が終わるまでの残り約1時間をどうやってごまかそうか、と頭を回転させていると、幸い民子さんは(仮)叔父に呼ばれて何処かへ消えた。叔父は口数が少なく無愛想なので、最初の挨拶しか言葉は交わしていない。なんだこのクソジジイと思ってしまったのは撤回しよう、グッドタイミング、ジジイ。

辺りを見渡せば、田舎だからか近くの火葬場は此処しか無いらしく、辛気臭い顔をした人達が沢山いた。泣き叫ぶ子供、おいおい静かに泣く老人、その他諸々。そうか、死ぬって普通はこういう事なのか。

なんとなく漠然としながら座っているといつの間にか1時間経ったのか、それから骨を拾ったり何だりとして、息苦しさから解放されたのはもう日がすっかり落ちてからだった。まだ仏壇やらの手続きがあるので今日は実家に泊まる。中に入れば完全な静寂が振りかかって来て、とりあえず私は喪服を投げ捨てそのまま風呂場に直行した。線香臭いったらありゃしない。



「もしもし、柳?」

「大丈夫なのか」

「うん、さっき家帰って来た所」



風呂から上がるとちょうどいいタイミングで柳から連絡が来て、肩にタオルをかけた状態でソファに座り、しばらく話し込む体勢に入る。



「不二も白石も心配してたぞ」

「急な事だったし、手続きとか葬儀で忙しかったから私はまだあんまり実感無いんだ。今日は2人の仏壇の傍で寝るから、その時ちょっと実感しちゃうかもね」



とか言って!



「出来るなら、傍にいたいんだがな」

「その気持ちだけで充分。金曜には東京戻るよ。でも木曜の約束は無理だから、皆で行ってきなよ」

「展示期間は来月までだ、延期した所でさして問題は無い。土曜も延期にするか?」

「うわ、傷心している私を癒すのは御免だって?酷いなぁ」

「そんな訳無いだろう」



途端に焦った声色になった柳にまた1つ笑い、その軽い調子のまま通話を終わらせた。痩せ我慢とでも思われてるんだろうなぁ、まぁその分土曜甘えやすくなるからいいや。思わせておけ。

にしても、男2人ねぇ。結局頭の中を埋め尽くすのはその事だけで、私は髪を乾かしながら鏡の自分と睨みあった。
 3/3 

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