「他人の空似にしちゃ、ちょっと出来すぎてるよねぇ」



引き出しの奥に放置されていた前の携帯を引っ張り出し、その中のデータフォルダを開いてずっと思っていた事を改めて口に出してみる。1人暮らしのこの部屋に相槌を打ってくれる人は勿論いない、でもいたらいたで話を説明するのは面倒だからこれでいい。

あの子との関係は入学して割とすぐに始まった。俺も相手も互いの顔が抜群にストライクで、なんなら付き合いたいとも思ったけれど遊び盛りの俺達がそこまでに至る事は無かった。お互いが割り切れている関係というのはなんとも楽で、だから1年も続いていたのだ。とはいえ最終的には自然消滅、元々体の関係が無ければ校内では話さないし他人のようなものだったので、特に気まずい思いはしていない。少なくとも俺は。

だから、去年あの子が死んだという話を聞いた時はそれなりにショックだったし、今でもあまり実感出来てない。しかも、死に方があまりにも惨すぎるのだ。頭からつま先までの皮を剥ぎ取られ、しまいには内部の骨も何1つ残されていなかったらしい。ただの肉塊となったあの子を想像するのはどう頑張っても無理だったし、したくもなかった。



「(ま、気にしても仕方ないっか)」



パタン、と今となっては廃れてしまったガラケーを閉じ、もう一度引き出しの奥にしまう。最初にも言ったように、俺はあの子の顔がドストライクだったから写真は腐る程入っている。中には結構キワどいものもあって、こんな事本人には言えないけどそのせいで律子ちゃんと会うとどうもその服の下を想像してしまう。悲しい男の性だねぇ。

でも、いくら外見がそっくりとはいえ中身はまるで別人だ。見た目の割に中身はだらしなかったり適当だったあの子に対し、律子ちゃんはその期待通りにしっかりしている。それでいて厭味っぽくなく、外見が同じでも世の男は大多数律子ちゃんを支持するだろう。勿論俺もそうしたい所だけど、変死した昔のセフレとそっくりな女にちょっかいをかけるのは、なんだか幽霊を相手にしてるようで気が引ける。こんなくだらない思考からさっさと解放されたいなぁ、と嘆き、俺はそのまま眠りに入った。



***



「ほな、此処で使わせてもらうんはこれで決定やな」



白石がメモ用紙を私達の前に出し、内容を確認してから同意の意を込めて頷く。いくら昨晩にあんな事があったとはいえそれを仕事に持ち込む訳にはいかないので、今朝もいつもの時間に起きて何事も無かったかのように出勤した。そして今は既に終業後で、私達は予定通り幸村の店に来ている。

ちなみに白石が書いたメモの内容は、この店で使う家具をまとめたものだ。追加分も含めてその数は13点、主な家具から絵画までとジャンルは幅広い。



「後は完成したデザイン画を見せに来るくらいだろう。色々と世話になった」

「こちらこそありがとう。またいつでも来てよ」

「完成楽しみにしてるぜ」



一氏は私達が最終的に何を選んだかに興味があるのか、白石と一緒になってメモを食い入るように見ている。普段は小春の事くらいにしか熱くならない一氏でも、自分の仕事についてはやっぱり興味津々なんだなぁ。

とそこで私はある事を思い出し、早速柳と雑談している幸村の方へ歩み寄った。途中で2人も私の存在に気付いて、「どうかした?」と小首を傾げられる。



「新入荷したあのアクセサリーボックス欲しくて。色って白だけ?」

「本当に?あれ俺がデザインしたやつなんだよ、嬉しいなぁ。白と茶色と紺があるけど、全部見る?」

「幸村がデザインしたの!そりゃあセンスも良い訳だよね。うん、お願い」



コンセプトとは少しずれていたから企画には採用されなかったけど、アンティークのような繊細な造りのそれは私の好みにヒットした。しかも幸村がデザインしたというのを聞いて余計購入意欲は高まる。結局私は最初に目を付けた白を買い取る事にし、支払いはカードで済ませ笑顔の幸村からそれを受け取った。



「大事に使うね」

「ちゃんと家まで見に行くからね、使ってるか」

「オッケーオッケー」



そうして幸村もまた嬉しそうに笑い、一氏といい仕事熱心だとつくづく思う。宍戸も閉店作業の掃除を隅から隅まで念入りにしているし、昨日の今日で更に考えが卑屈になっている私からするとそれは若干妬ましくも思えた。



「やっぱり買ったんだね。ずっと可愛いって言ってたもんね」

「もう一目惚れだった」

「豊崎に似合ってる品だな」

「ありがとう」



不二と柳に相槌を打ち、報告する事はもう無いのでそろそろ帰る事にした。この企画が始まってからというもののもっぱら移動は白石の車に頼っているので、行き同様柳と一緒に後部座席に乗り込む。



「ようやく最終段階やなぁ、完成が待ち遠しいわ」

「優秀作品に選ばれると良いね」

「大丈夫だ、確率は極めて高い」

「柳のお墨付きなら安心だね。このまま明日も頑張ろう」



仕事熱心な人達に影響されたような言葉を吐けば、3人も誇らしげな笑みを浮かべる。完全なる出来レースに巻き込んでしまった身としては、その笑顔はやっぱり複雑だった。
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