「どないしよ、って顔に書いとるで」

「…なんでお前がウチの会社にいんだよ」

「上司に頼まれて資料届けに来たんや。にしても、自分がそんな表情しとるなんてらしくあらへんなぁ」



誰にも見られないようにとわざわざ人気の無い場所まで来たというのに、なんでこいつがこんな所にいやがんだ。心の中でそう悪態を吐きながら目の前の忍足を見るが、相変わらず何を考えてるかわからない顔をしていて、それがまた癇に障る。



「で、どないしたん」

「別になんでもねぇよ」

「跡部とは真逆にジローはやけに嬉しそうやったけど、それは関係あるん?」

「分かってて聞くとはお前本当に性悪だな」

「褒め言葉や」



昨日の仕事帰りに行った飯屋で、ジローはスペアリブを頬張りながら笑顔で言い放った。

 俺、律子と友達になったよ!

スペアリブの美味さも相まってかその時のジローはやけに嬉しそうだったが、反して俺の顔は一瞬にして引き攣ったのを覚えている。何故、何処で、どうして。問いかける間もなく自分から話し始めた経緯を聞いて、その偶然を酷く恨んだ。



「あんまり過保護すぎんのもあかんでぇ」

「うるせぇ。大体お前は変だと思わねぇのか」



俺の問いかけに忍足は吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付けてから、奴にしては珍しい真剣な目を寄越してきた。



「そんなん、最初から気付いとったわ」



確かに、こいつがあいつの違和感に気付いていないなどという事はあり得るはずがなかった。でも、その違和感がなんなのかは1年経った今でも全くわからない。同じ会社の忍足でさえこんな表情を浮かべているんだ、今となっては月に一度会うくらいの俺があいつの事を暴けるはずがない。



「謎が多いんはセクシーやけど、あの子はその域を越しとるな」

「以前あいつに色々と質問した事があったが、大学名はおろか過去の男の事さえわからなかった」

「…跡部。それ多分、あの子気付いとるで」



周りの雑音が聞こえなくなり、コピー機の機械音すらも耳に入らない。



「俺らがあの子の事を疑問に思っとるの、あの子気付いとる」



何を聞いてもはぐらかされる節はあった。だが、どういう意図ではぐらかしてるのかも、あいつが普段何を思ってるのかも、そして、何故キスしてきたのかも。全てがわからない。探ろうとすると、その瞬間とんでもなく不安な気持ちに駆られる。



「こういう意味で女を怖いと思たのは、これが初めてやわ」



そう言った忍足の顔は明らかに引き攣っていて、「ジローに何もあらへんといいけど」と心底心配そうな声色で呟いた。ジローがそこまで馬鹿じゃないのは俺達も知っているが、それでも心配せずにはいられない。あの女の正体が暴けるまでは、このつっかえはどうにも取れそうにない。



***



「今日は金色と赤也が働いてる店に行こうと思うんだが、良いか」

「そっか、切原君は彼と同じ店舗に配属になったんだね。良いよ、行こう」



不二の返事に私と白石も賛成し、そんな経緯で今日は小春達のお店に行く事になった。小春がウチの系列店で働いてるのは知ってたけど、なんだかんだで足を運んだ事は無かったからこれは楽しみだ。加えて赤也君もいるとなれば、さぞかし賑やかになるだろう。



「どうせなら俺の車で行かへん?今日ちょうど乗ってきてん」

「わー、それ楽でいいね。お言葉に甘えます」



助手席に柳が乗り込んで、後部座席に私と不二が乗り、車は出発する。「行くでー」と言った白石の口調は陽気で、仕事で行くというのになんだかピクニック気分だ。

そうして走らせる事30分、小規模なインテリアショップに到着した。外観だけを見るとアジアンな雰囲気が漂うそこは、中を見ると意外にも色々な種類の雑貨が揃っていて、柄にもなく心が躍る。

まずは店長に会社からやって来た事を伝え、了承を得てから私達は店内を見渡し始めた。小規模な割に2階もある為品揃えは抜群だ。いつの間にか個別行動になっていたので1階にいる3人より一足先に階段を上れば、そこには。



「あぁああぁーー!!律子さんじゃないっすかーー!!」

「赤也君!お声が大きいわよ!」



小春に指示を受けながら検品をしている赤也君がいた。あまりにも大声で私の名前を呼ぶものだから、他の客は驚いて一斉に私達を見る。これには流石に痺れを切らした小春が彼の頭をぺちん!と叩くと、瞬く間にしゅんとなった。可愛いー。



「どうも。小春は久しぶりだね」

「せやなぁ、驚いたわぁ!今日はまたどないしたん?」

「会社でプレゼンをやる事になってね、その素材探しと言いますか」



私服姿の2人は中々サマになっていて、赤也君もついこの前までは大学生だったのを感じさせないくらい大人びている。小春もてっきり派手かと思えば意外とシンプルにまとめてるし、社会人としてはちゃんとしてるんだなぁと感心。何様だって感じだけど。

3人でしばらく話していると不二、白石、柳の順番で輪に入って来て、私達はしばらく積もっていた話をし始めた。特に赤也君は柳にべったりで、流石の柳も苦笑している。



「ねぇねぇ小春ちゃん、ちょっと教えて欲しい事あるんだけどー後さっきの叫び声どうしたのー?」



と、その時。
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