あれから、1週間後。



「(…私、何で此処にいるんだろう)」



茶封筒に入っていた内定通知に従い会場に来てみれば、そこには私と同じくスーツを着た新社会人で溢れ返っていた。会場内の横断幕には確かに私が憧れていたインテリア会社の社名が書かれていて、今、その入社式が行われている。

最初は何かの間違い、もしくは悪い夢だと思った。だからあの男と病院で別れ家に戻った後も、私は至って平常心を装って豪華な家の設備を色々と楽しんだ(シアタールームまであったからそれはもう浮かれた)。なのに、何度朝を迎えてもいつもの朝は戻って来ない。外に出て自分の知っている地名の場所に行っても、風景は何も変わっていなかったのに何もかもが違った。自分だけ浮いてる気がしてならなかった。

そんな日々を過ごして来た癖に、今は飄々とパイプ椅子に座り社長の有難いお言葉を聞いている訳だけど、正直何も整理はついていない。でも、この世界で過ごしていかなきゃいけないという事だけはわかったから、それに従っている。あーあ、前の世界ではもう社会人うん年目でそれなりの立場だったのになぁ、まさか若返っちゃうなんて良いのか悪いのか。



「失礼」

「っ、?」



そう物思いに耽っていたら、ふいに隣に座っていた人が私の顔を覗き込んできた。突然の事に驚き一瞬目を瞠り、無意識に体がのけぞる。その人は私のこの反応を見て一度謝った後、再び話を切り出してきた。



「1週間程前、病院の近くで倒れていた人じゃないですか?」

「え?あ、あぁ。そうですね、起きたら病院にいました」

「元気になったようで良かった」



男の人の言葉でもしかして、と閃いたので、私を運んでくれた方ですか?と問いかけてみる。すると男の人は首を一度縦に振り、小さく微笑んで来た。うわ、イケメン。



「凄い偶然ですね。すみませんわざわざ、重かったでしょう。あの節はお世話になりました」

「いいえ、全然。確かに凄い偶然ですね」



それから話を進めていくうちに、男の人は今の私と同い年だという事が判明した。ちなみに名前は柳蓮二。お互い初めて出来た同僚という事なので堅苦しい敬語は無しにし、式中にも関わらず私達は会話に華を咲かせた。

前の世界でも男の同僚はいたにはいたけど、こんなに砕けた感じで話せた事は無かった。それは多分、というか確実に、私が抱えていたコンプレックスが関係していたからだろう。嗚呼、美人ってすごーい。“男女共に好意を持たれるような人柄になって、人間関係に不自由しないようになりたい。”私のあの願い事も見事現実になったらしい。



「豊崎は何課なんだ?」

「インテリア課だよ」

「そうか。俺もだ」

「ふふ、本当に偶然続きだ」



私が笑って喜びを表現すれば柳も笑ってくれて、別に恋愛云々とかではなく、純粋に柳が仕事のパートナーだったら上手くやっていけそうだな、と思った。自分で言うのもなんだけど、その場その場の順応性に長けていると思う、私。

後柳が言うには、この会社には中学来の友人達が結構な人数入社したらしい。中学、高校で在籍してたテニス部の仲間達が他校含めいるんだとか。そんな事有り得るのかと思ったのも一瞬、1回死んだ私がこうやって違う世界で生き返ったんだから、もう何が起こっても不思議では無い。全て受け入れよう。



「では、これにて入社式を終了します。新社員の方は課ごとに別れて集まって下さい」



司会者の言葉がホール内に響いた所で、私達は腰を上げ立ち上がり、インテリア課の集合場所である別の小ホールに足を進めた。立ち上がると柳は長身な私と並んでもだいぶ差がある事がわかって、本当に神はこの人に何物与えたんだと苦笑する。とはいえ、端から見たら私もそう思われてるんだろうけど。



「お、柳やん」

「久しぶりだね」

「白石に不二か。お前達もインテリア課だったな」



小ホールの入口に辿り着くと、後ろからこれまたとんでもなくイケメンな人達が話しかけて来た。どうやらさっき柳が言っていた例の友人達らしい。類は友を呼ぶ、ってこういう事を言うんだなぁと勝手に感心する。で、しばらくして2人の意識が私に向いたので、咄嗟に笑顔を繕った。



「豊崎、さっき話していた学生時代の部活仲間だ。2人は他校だったがな」

「どーも、白石蔵ノ介言います。よろしゅう」

「不二周助です、よろしくね」

「うん、こちらこそよろしく。私は、」



私の願いが全部叶った世界は、果たして私にどんな出来事を与えるのだろうか。これから先どんな人と出会って、どんな思いをしなければいけないのだろうか。



「豊崎律子です」



まぁ、それもこれも全部、―――他人事だ。にこやかな表情を浮かべてくれる3人に向けた私の笑顔は、多分、反吐が出そうになるくらい綺麗なものだった。
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