「ちょっと目にゴミ入っちゃったみたい」

「え?大丈夫ッスか?」

「ごめんなさい、もう一度お手洗い行ってきます」



ふいに両手で顔を隠し俯いた豊崎さんは、そう言って元来た道を小走りで戻って行った。その後姿をしばらく見つめていると手の中の携帯が震えたから、素直に意識をそっちに向ける。届いたのは登録した覚えも無いサイトからのメールマガジンで、一応開封してからしまおうと思い携帯を操作していると、俺はそこである異変に気付いた。

 14時7分?

今さっき豊崎さんに画面を見せた時、時間は14時ジャストだったはずだ。毎時間画面に出てくる変なキャラクターも映ってたし、確かに、14時だった。それから律子さんがもう1回トイレに行ってこのメールが届くまでの間って、7分もあったっけ?



「すみません、ちょっと時計見せてもらっても良いッスか」

「ん?あぁ、いいよ。ついこの前新調したばかりなんだ!」



なんとなく自分の目が信じられなくて近くにいた人に適当に話しかけると、その人は自慢げな顔でズイッと腕時計を出してきた。ロレックスのデイトナ。14時7分15秒。それを確認してからお礼を言い、とりあえずその場を離れた。



「越前、何ぼさっとしてんだよ」

「跡部さん、俺最近疲れてんのかもしれないッス」

「あーん?やりがいのある事で得られる疲労ならいいじゃねーか」



妙に粋な答えを返してきた跡部さんにも何も言い返せず、軽く頭を下げてまた違う場所に行く。



「どうした越前、随分浮かない顔をしているな」

「そッスか?」



この人なら何か答えをくれるかも、と思って近付いた柳さんも、不思議そうな顔で俺を見るだけ。誰もこの異常に気付いてないのか、それとも俺が疲れてるだけなのか、なんだかよく分からなくなってきた。

知らない間に時間が過ぎていた、なんていうのはよくある話だ。寝ている時や何かに熱中している時は特にそうで、その事には何の疑問を持たない。でも、今の状況には何故か疑問しか感じない。時間は進むものだけど、なんで一気に進んだの?

昨日柳さんは、豊崎さんの事を怖いと言っていた。豊崎さんは本当に綺麗でしかも愛嬌があって、怖い要素なんてまるで無い。むしろ何もかもを兼ね備えた凄い人だと思う。



「何か手伝う事はありますか?」



14時15分。豊崎さんは、にこやかな表情でトイレから戻って来た。
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