「ごめん豊崎、ちょっと時間かかりそうだから先戻ってて良いよ」

「わかった。なんかあったら連絡ちょうだいね」



思ったよりも体調が悪かったのか、丸井はトイレに着くなりすぐに個室に立て篭もった。勿論私は中には入れないから外で2人が出てくるのを待っていたんだけれど、数分後に出て来たのは不二のみで、しかもそんな事を言われたから大人しく宴会場に帰る為足先を変える。



「おい日吉、お前俺らがトイレ行ってる間にデザート盗んなよ!」

「誰が盗るか」

「そういう奴に限って盗るんやで」

「早く行け」



すると、その途中で通りかかった個室から何やら聞き覚えのある声が聞こえたので、声の持ち主が出てくるのをドアの前で待ってみる。ドアが開いた先からは案の定若干頬を赤く染めた赤也君と光君が出て来た。



「あぁー!律子さんじゃないすか!こんな所で超偶然!何してるんすか!」

「やっほー、ちょっと久しぶりだねー2人共」

「もしかして酔ってはります?」

「少しね」



飛び付く勢いで私の元に駆け込んできた赤也君を受け止め、相変わらずクールな光君とやり取りする。そんな私達の会話を聞いてか、中に居たもう1人の男の子が不審そうな顔でひょっこりと出てきた。



「何騒いでんだ…って、確か貴方は」

「もしかして、私を助けてくれた時2人と一緒にいた子?」

「そうです」



そこにいたのはいつかの男の子で、この2人と一緒にいるという事はもしかして、という賭けにも似た記憶を引っ張ってきてみれば見事的中した。そういえば私を助けてくれた時はこの子達を含め後もう1人いたような。その疑問を口に出すと、「鳳は今日用事があっていなんすよ」と赤也君が答えてくれた。へぇ、あの子は鳳君っていうんだ。確か結構私好みのイケメンだった気がするから覚えておこう。



「ちょ、律子さん、俺漏れそうなんで先にトイレ行きます!ちょっと待ってて下さい!」

「今トイレ行ったら丸井と不二いるよ。会っておいでー」

「うわー面倒。ほなちょい行ってきますわ」



そこで2人は長い事我慢していたのか急ぎ足でトイレに行ってしまったから、必然的に私はもう1人の男の子と2人きりになる。とりあえず彼の方を向けば、「立ちっぱなしもあれなんで中入って下さい」と個室に促された。隣同士で座って、一息吐く。



「一応初めましてって事にしておこうか」

「貴方の話はあいつらから散々聞かされてます」

「へえ、悪口?」

「まさか。自覚しているでしょう」



おぉおぉ随分とズバズバ言ってくる子だ。でもこういうの嫌いじゃないかも。

それから自己紹介をしていくにつれて、この子の名前は日吉若君というらしい事がわかった。そして更にわかったのは、若君はあの2人に比べて頭が良い。女の子を口説く才能は無いけれど、これは上司とか仕事相手に気に入られそうなタイプだろう。



「2人共遅いね。一緒に丸井の介護してるのかな」

「全く、だらしないですね」

「このデザート食べちゃおっか。美味しそうミニケーキ」

「俺は知りませんよ。まぁ貴方相手ならあいつらも怒らないんじゃないですか」



でも、生意気もここまでくるとちょっと面白くない。そう思った私は、「じゃあ」と言葉を続けながらケーキにフォークを刺し、彼の顔の前にやった。



「2人で食べちゃおっか」



さっきの柳へといい、こんなにもイケメンをからかいたくなるのは多分、いや、確実にお酒が回っているからなんだろう。人を弄ぶのってこんなに楽しかったっけ。

私の意図に気付いたのか、若君は差し出したケーキを一口で食べるとその流れで勢いよく唇を重ねてきた。まだ噛み切れていないケーキが口内に侵入してきて、気持ち悪いような、でも気持ち良いような不思議な感覚に襲われる。やだこの子、堅物かと思えば案外ヤリ手じゃん。

このまま行ったらもっとヒートアップしそうだったけど、ドアの向こうから赤也君達の騒がしい声が聞こえてきた事により行為は終わった。パッと彼から距離を取り、ドアに手をかける。



「またね、若君」

「えぇ、また」



きっと若君は対等な気分でいるんだろうけど、勿論そうはさせない。年下の、それも学生相手に安い女だなんて思われてたまるか。酔いが冷めてからもこの思いが続いてるかは分からないけど、私は密かにそんな計画を立てた。
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