「んじゃー次は俺と飲めよぃ」

「あぁ、丸井か」



重みの正体は丸井で、片手にジョッキを持っているのを見る限りもう結構酔ってるらしい。だから無駄なボディタッチが多い訳か、丸井はイケメンだからいいけど。

座布団をやけにくっつけながら隣に座って来た丸井に、「ちょっと飲み過ぎじゃない?」と言えば、「そういう場だろぃ」と流された。一理ある。



「まだ始まって30分くらいしか経ってないのに、もう結構皆出来上がってるね」

「そうでもしねーと話せないんだろぃ。全く根性のねー奴ら」

「そういう丸井は?」

「好みの奴いるかなーと思ってたけど、やっぱお前が1番だわ」



さも当たり前かのように告げられた言葉には、心の中でガッツポーズをせざるを得なかった。いくら自分が美人とはわかっていても、この大人数の中で1番と言われればそりゃあ女として嬉しいに決まっている。だから素直にお礼を告げれば、丸井は勝気な笑みを見せてきた。



「俺、豊崎のそういう変に謙遜しねーとこすっげえ好き」

「あはは、そこまで褒めても何も出ないよ。何が欲しいの?」

「んー、じゃあ酒!」

「すみませーん、ジョッキ2つ追加でー」



大して美味しくも無い安酒が妙に進むのは、会話のテンポの良さのおかげだろうか。さっきまで小春を恨めしそうに見ていた男共は、それが丸井に変わると諦めたように違う女の所へ行った。安い女に安い男、お似合いな事この上ない。お幸せに!



「随分楽しそうだね」

「お、不二!女達から切り抜けられたのか?」

「それはお互い様でしょ」



そうしていると、次はワインを片手に持った不二がやって来た。グラスも中身も大層安いであろうに、不二が持つと一気に高級感が溢れるから不思議だ。そんな不二はお酒が強いのか、顔色1つ変えずにそれをぐびぐび飲んでいる。何杯目か聞いてみた所、もう軽く8杯は超えているそうだ。恐るべし。



「豊崎、企画の方はどうなの?上手く行ってる?」

「うん、柳のおかげでね」

「すっげーよなぁ、柳と対等に話し合える女なんて早々いないぜぃ」

「柳が私に合わせてくれてるだけだよ」



同じ課の中でも何故か不二とは時間が合わない事が多く、こうしてちゃんと話すのは久しぶりだ。私と柳がいない時の会社の状況などを色々聞いてると、本当に自分が優秀な事を思い知らされてまた誇らしくなる。段々お酒が回って来たのか、思わずボロが出そうで怖い。



「さっき商品開発課の人達と話して来たんだけど、その人達も皆豊崎の事知ってたよ。美人だ、美人だってね」

「なんか今日はよく褒められるわぁ。皆酔ってるんだね」

「いや、マジでお前は美人だって!」



再び力説するように言って来た丸井は、本格的に酔っているのか若干呂律が危うい。そんな丸井を見兼ねた不二が苦笑しながらお冷を用意すると、奴はそれすらも一気飲みした。あーあー、これは厄介な事になりそうだ。



「やっべ、ちょい気持ち悪くなってきた」

「大丈夫?トイレ行く?」

「おー」

「ごめん不二、そっち持って」

「わかった」



私と不二に支えられて歩き出した丸井を、他の人達は心配そうに見守る。これが不細工だったら引いてるだろうに、イケメンというのは本当に得だな。引かれるどころか女からは可愛いー!とか言われてる始末だ。人生所詮顔。

トイレに行く為にドア付近に行くと、そこには他の課の女子に捕まって退屈そうにしている柳がいた。靴を履いて出ようとした瞬間、その鋭い目と視線がかち合う。だから私は誤魔化すようににっこりと笑った後、わざと密着するように丸井の体を支え直して、その場を去った。ごめんね柳、酔った勢いでからかってみたくなっちゃった、許してね!
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