1番最初に豊崎を見た時、きっと誰もがこいつに抱くであろうただただ整った顔立ちをしてやがるな、という印象を持った。確かに豊崎は綺麗だ。それでいて飾ってなくて、まるで絵に描いたような容姿と、誰もが憧れる内面を持ち合わせている。

でも、それと同時に何かとてつもなく大きな違和感もあった。



「そうじゃ、今日は跡部も呼んだんじゃった。まぁ座りんしゃい」

「当たり前だろ」



警戒心を含んだ目で見てきた豊崎をソツなくかわし、同じカウンター席に1つ間を空けて座る。仁王とは他校の中でも親交が深い方で、店を開いたのを聞いてから来ようとは思っていた。それで予定が合ったのが今日だったから来てみた訳だが、まさか豊崎がいるとは流石に予想外だ。しかも、この2人何かしてたみてぇだしな。それはどうでもいいが。

「おまんの口に合うかのう」謙遜しながら差し出されたシャンパンは、家で飲んでいるものよりは劣るが流石仁王と言うべきか、決して質素な味ではない。その事を伝える為に「チーズが欲しいな」と言えば、奴は満足そうに笑いながら一度裏へ引っ込んだ。と、なれば。



「今日はサボりか?」

「何で仁王も跡部さんもそう言うかな。当たりだけどさ」

「この時間にその格好で居たらとても仕事帰りには見えねぇだろ。つーか、その跡部さんってのやめろ」

「じゃあお構いなく跡部で」



くすんだピンク色のシャツにデニムのショートパンツを履いている豊崎は、いつものスーツ姿とは違い年相応の雰囲気を醸し出している。更に足元はヒールではなく黒のエンジニアブーツを履いており、意外とこういう格好もするんだな、と誰に言うでもなく思った。

そうして豊崎は手に持っていたグラスを煽って飲み干すと、何か言いたげな表情で俺に視線を寄越した。その視線があまりにもあからさまで、つい喉でくつくつと意地悪く笑う。



「何笑ってるの」

「いいや?別に」

「ほんっと跡部ってやな感じだよね」



特に酔っているようには見えないが、恐らくその言葉は本心なのだろう。鬱陶しそうに細めた目が全てを物語っている。だから俺はそれに対し「お互い様だろ」と軽く答え、ちょうどいいタイミングで仁王が持ってきたチーズに手をつけた。



「酒もつまみもそれなりのもん揃えてんじゃねーか」

「そりゃあ、知人におまんみたいな奴がおれば下手なもんは買えんぜよ」

「当たり前だ、んなもん店に置いてたら全部捨ててやろうと思ってたぜ」

「おーこわこわ」



俺達の会話を横で聞いている豊崎にいつもの愛想笑いは無く、ただただ仏頂面で酒を喉に流し込んでいる。そろそろなくなりそうなのを見兼ねた仁王が新しい酒を出したが、それにも大した反応は見せずに淡々と飲み始めた。

俺は、そんな豊崎は珍しいにも関わらず(と言えるほど会った回数は多くないが)、その姿には何の違和感も持たなかった。これまで俺が見て来た豊崎は他と比べるとどうにも浮いて見えて、極めて異端だった。言ってしまえば、人間らしくない、と表すべきか。



「なんじゃ豊崎、急に不貞腐れたのう。腹減ったんか」

「私そんな子供じゃないよ。でも空いた」

「仕方ないから今なんか作ってくるきに、ちょお待っときんしゃい」

「ん、ありがとう」



微妙に納得いかなさそうなのは俺と2人になる事への不快感か。どんどんと露わになっていく本性に、心底楽しくなって笑みを浮かべる。



「そんな表情も出来んじゃねえか」

「…忍足から聞いたけど、跡部って何で私の事異端だと思ったの?」



不意に投げかけられた質問に、自分の思考を読み取られたのではないかという感覚に陥り一瞬目を瞠った。豊崎はそんな俺をジッと捕らえるように見つめて来るので、俺も負けじと見つめる。

何で、とか、どうして、とか、そんな具体的な考えから異端だと思った訳ではない。そこまで考えが行き着くほどこいつと会ってもいないし、ましてやまともに話すのはこれが初めてだし、だからこれはただの直感だ。だが、俺は自分の直感には絶対的な信頼を持っている。



「さぁ、なんでだろうな」



まだまだ断言は出来ない。豊崎に関しては、もっと沢山知らなければその答えは出ない。俺は、豊崎律子に興味がある。俺に媚びない珍しい女だから?確かにそうだろう。類稀に見る美人だから?それもあるだろう。実際問題そんなもんだ。最初から自分に興味を持っている女なんてつまらないし、横に並べるなら美人な女の方が良い。それも、とびきりの、俺に見合うくらいの。



「私、跡部とは出会いたくなかったな」

「そうか?俺は嬉しいぜ」

「ふうん」



鼻腔をくすぐる香りを放ったアラカルトを何品か持ってきた仁王は、俺達の顔を見比べるなりこいつもまた楽しそうに笑った。それに対し更に顔を顰める豊崎が、面白くて仕方ない。これは、恋なんていう甘いものではない。言うならば駆け引きだ。俺が、その違和感の正体をブチ暴いてやる。

お前と会えて良かったぜ、豊崎。
 2/2 

bkm main home
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -