「見習いとして就かせていただくことになりました、真田弦一郎です!よろしくお願いします!」



とまぁ少し気が重くなるような出来事もあったものの、そんな重さも吹っ飛ばすような人がこの会社に入って来た。真田弦一郎、兼ねてより私達と働く事が決まっていた、柳達と幼馴染の熱血男である。

真田の馬鹿でかい声の自己紹介は社員の掴みをばっちり取ったのか、彼が自己紹介をし終えた後その場は拍手喝采となった。特に白石なんかは「真田の奴おいしいやっちゃなぁ」とか言って関西人ならではの反応をしている。それを聞いた不二も楽しそうに笑ってるけど、幼馴染という関係なだけあって柳だけは少しだけ呆れていて、ついでに照れ臭げだ。



「凄いねー真田、あれで見習いとか嘘でしょ」

「恰幅や威厳だけ見れば完全にベテランだな。何処でも浮く奴だ、良い意味でも悪い意味でも」



でもなんだかんだ言いながら暖かい目をしているのが微笑ましくて、私は思わず肘で柳の脇腹を小突いた。可愛いトコあんじゃん。

それから真田は他の課にも挨拶に行く為インテリア課からは姿を消したけど、数分後、隣の課からまた馬鹿でかい声が聞こえて来て、私達4人は顔を見合わせて笑った。



***



「豊崎、この後は暇か?」

「え、何、どしたの3人お揃いで」



終業後。んーっ、と伸びをして肩の凝りをほぐしていたら、柳、白石、不二が3人揃って私のデスクまで出向いて来た。ランチを一緒にする事はあっても帰りは割とバラバラな私達が、終業後もこんな風に集まっているのは中々珍しくついびっくりしながら聞き返す。



「この後幸村の店に行くんだが、良かったら一緒にどうだ」

「幸村の店に?」

「俺と不二の友達も働いてんねん。折角やし顔出そかなー思てな」

「明日までの仕事も無いしね。豊崎もどう?」



何を言われるのか身構えていたのも虚しく、3人の誘いはそんなものだった。いや、別に気を張らなきゃいけないような事をしでかした覚えも勿論無いんだけどね。そんな感じでとりあえず一度肩の力を抜いた後、二つ返事で3人の誘いを承諾した。幸村が経営してる店に白石と不二の友達もいるとかなんて世界は狭いんだ、とこの姿になってからは常々思うようになった。いくらなんでも誰もが繋がりを持ちすぎていて怖い。どうせその友達とやらもテニス部なんでしょ。

という私の予測もばっちり当たったらしく、店に行くまでの道のりで白石と不二はその友達とやらについてぺらぺらと話し始めた。白石の友達は物真似好きで、不二の友達はライバル校だったゆえに何かと闘争心が出ていて、まぁ一言で言っちゃえば暑苦しい熱血タイプの人なんでしょうね。加えて、〜の友達とか言ってるけど結局皆テニス部だった事には変わりないんだから、実質皆の友達のようなものだ。そこまで考えて、あれこれやっぱり私って邪魔じゃないか?と思ったけれど今更引き返せるはずも無く、私は3人の談笑に混じりながら足を進めた。



「此処だ」

「うわー、何この外観からこじゃれた感じ」

「俺も最初来た時びびったわ」

「流石幸村だね」



そうしてしばらく歩くなり店には割とすぐ着いた。白を基調とした外観は幸村のイメージに恐ろしいほど合っていて、雇われ店長とは言っていたけどきっと自分の好きな感じに改装したのであろう事が窺える。雰囲気からちょっとした小物など何から何まで洒落ていて、そのセンスには脱帽せざるを得ない。

そんな風に私が圧倒されているにも関わらず、3人は慣れた様子で店内に入って行った。その時に鳴ったドアに付いているベル音もこれまた繊細な感じで、外観だけで此処まで凄かったら内観はどうなるんだ、と若干不安になる。



「あ、いらっしゃい!今日はいっぱいいるんだね」

「白石やないかー!久々やなー!」

「なんだよお前ら揃いも揃って、激ダサだぜ」



…おーっと、こう来たか。私達を迎え入れた店員は、幸村は勿論の事後の2人も抜群に顔面偏差値が高くて、ふらつきそうになった体を支える為ぐっと足に力を入れる。こじゃれた店にはイケメンが付き物ですよねーそうですよねー。嫌味にも似た感想が頭の中を巡った時、それと同時に店員2人の視線が私に向いたので瞬時に笑顔を取り繕う。



「豊崎もよく来てくれたね、いらっしゃい。多分蓮二から聞いてると思うけど、この2人も元テニス部でそのゆかりで此処で働いてくれてるんだ」

「一氏ユウジ言いますー、よろしゅう」

「宍戸亮だ。話は聞いてるぜ」

「豊崎律子です。これからよろしく」



店内にはちらほらとお客さんがいて、皆各々自分の見たい物に見入っているから特に私達を気にかけている様子は無い。それを良い事に少し話し込む体勢に入った皆は、近況報告や飲み会の約束など色々な話題で盛り上がり始めた。此処で私を置いてきぼりにするほどこの人達も馬鹿じゃないので私にも一応話は振られるけど、当たり前のように愛想笑いと定型文の相槌のオンパレードだ。だってそうじゃない、何でこの人達の同窓会に部外者の私が参加しなきゃいけないの、そこまで空気読めなくないわ私だって。



「せや、小春は元気か?最近会ってないねんー寂しいわー!」

「アホ、ウチの会社の店舗で働とるっちゅーだけでんな毎日顔合わす訳あらへんやろ。俺達は会社で事務作業や」

「んじゃ忍足はどーだよ?あいつ最近忙しいみてーでノリ悪いんだよな」

「確かに忙しそうだよ、たまに社内で会った時疲れた顔してるし」



それから話を聞いていくうちに、どうやら一氏には彼女がいるらしい事がわかった。元テニス部員達は皆美形なのに皆彼女がいないから若干不審に思ってたけど、やっと健常者を見つけられて安心だ。で、その一氏の彼女の小春さんはウチの会社が展開している店舗で働いているらしい。一氏曰く、小春さんの接客は対応が良すぎて思わず客に嫉妬してしまう程なんだとか。そんなに凄いなら今度店に行ってみようかな、と言ったら「惚れたら承知せんからな!」と返され、一氏はルックスの割に少し頭がおかしいんだなーと思った。

宍戸は、私が抱いていた暑苦しい熱血タイプとはまた少し違い、確かに幼さや口の悪さは目立つけちゃんと周囲に目が向けられるタイプである事がわかった。ガサツだけど女には優しいし、うーん、こりゃハマッたら抜け出せなくなるタイプに違いない。

そうやってお馴染みの人間観察(見定めと言った方が正しいか)をしている間に時間は過ぎ、私達は店内を軽く見てからそこを出た。



「じゃあ豊崎、今晩も楽しみにしてるね」

「精市」

「冗談だろ、そんな怒らないでってば」

「じゃあ私もそれなりに楽しみにしとくよ」

「豊崎」

「…冗談です」



再会と新たな出会いが多かった1日だけど、それら全ての出会いが今後の私にどんな影響を与えていくのか、この時はまだ何も知らなかった。
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