「にしても、研修っちゅーくらいやからもうちょいおもろいもん聞けると思っとったんに、意外に退屈やなぁ」

「明日もあるからな、さっきので決め付けんのはまだ早いで」



私と丸井は柳、白石、不二、忍足、千歳が座っているテーブルに腰を降ろした。ビュッフェ形式の夕食を食べながら不満を漏らしたのは忍足で、それに白石が困り顔で返事をする。確かにさっき行われた講演は言っちゃ悪いけど暇だったなぁ。あんな基本中の基本、わざわざ研修に来てまで話す事でもないでしょうに。いくら基本が大事とは言え、もうその順序はこれまでにちゃんと踏んで来たもの。



「明日からは課ごとに別れて行われるみたいだから、さっきのよりは有意義な話を聞けるんじゃないかな」

「講演後の質疑応答も少人数体制で組むそうだ。そこで沢山学べば良いだろう」



つまらなさそうに口を尖らせている忍足、ついでに丸井に対し、不二と柳はそうフォローに入った。千歳は講演内容なんてさほどどうでもいいのか、さっきからご飯を美味しそうに頬張っているばかりだ。全くこの人は相変わらず読めないな、と内心呆れる。

と、そこで私はさっき柴崎に頼まれた事を思い出した。だから皆が話に夢中になっている隙をついて、隣にいる忍足に小声で話しかける。



「ねぇ忍足、今日の夜共有ロビーで集まろうって言ってたじゃない?それに落合さんって呼べる?」

「落合?俺の課で、俺達と同期のか?」

「そうそう」

「何も無かったら来てくれると思うでー、でも何でまたあいつなんや?」



案の定不思議そうな顔を向けて来た忍足に柴崎が落合さんの事を狙っていると簡潔に伝えれば、忍足は「お安い御用や!」と屈託のない笑顔を向けて来た。だからその事に安堵し、とりあえずいちはやく柴崎にメールで報告する。そうすると返事は光の速さで返って来た。これで準備OK。



「何企んでるとね」

「うわ、びっくりした。食べ物取りに行くの?私も行くー」



1人で小さくガッツポーズをしているのを見られたのか、不意に背後から千歳が顔を覗き込んで来た。どうやら追加の食べ物を取りに行く為に席を立ったらしいので、投げかけられた言葉はスルーし私もそれに便乗する。ちょうど1人で行くと他の男に声をかけられて鬱陶しかったところだ、グッドタイミング千歳。



「何隠してると?」

「別に隠す程の事じゃないけど、私の秘密じゃないので言いませーん」

「ふーん?」



少し挑発的な笑顔を浮かべて来た千歳に、私は満面の笑みで応える。すると千歳は面白そうに眉を上げ、「読めん女たい」と呟いた。いやいやそれこっちの台詞ですから。



***



時は過ぎ、21時。



「えーっ、T大学なんだー!じゃあ結構近かったんだねー」



共有ロビーには全部で…何人だ?もう数えるのも面倒臭いからいいや。兎に角、それくらい結構な人数が集まっている。概ね男は私が来るのを、女は柳らへんが来るのを風の噂で聞いて来たのだろう。女も男もまるで餌に飢えた動物のような勢いがあって、何この学生合コンみたいなノリ、と冷ややかな視線を送る。柴崎も例外なく猫撫で声で落合さんに話しかけてるけど、あの子は元からターゲットを1人に絞っていたからまだ良いだろう。落合さんも満更でも無さそうだし、後は好きにやってくださーい。



「いやに冷静だな」

「柳。女の子達の相手はしなくていいの?」

「どうもあぁいったタイプは苦手だ」



色々な人を観察しては毒づいていると、女の輪の中から柳が渋い顔で出て来た。高学歴、高身長、高収入。3Kがモテる時代なんてもう随分昔の事だと思っていたけど、いつの時代も女が求める男は変わらないらしい。笑えるほどに貪欲だ。

そう思いながらもとりあえず疲れた顔をしている柳に飲んでいたお茶を渡せば、彼は控えめにそれに口を付け、小さく息を吐いた。視界には、これまた大量の女に囲まれている白石、不二の姿が見える。忍足と丸井は、完全に友達感覚なのか男女数人で輪になって話していて、千歳は…アレ、千歳が居ない。



「柳、千歳何処行ったの?」

「さぁ。煙草でも吸いに行ってるんじゃないのか」

「そう、ならいいけど」

「随分千歳と仲良くなったんだな」



柳の返事を聞いて、確かにこのロビーは禁煙だし煙草を吸う為にベランダかどっかに出ててもおかしくないか、と疑問が晴れた私は、そのまま何事も無かったかのようにお茶をあおった。が、その直後柳が放った言葉に思わずお茶を噴き出しそうになる。口元を手で押さえ、慌てて喉に流し込む。



「ど、どういう意味?」

「分からないなら良いが」

「何で拗ねてるの」



意外や意外、まさか柳がこんな子供臭い表情をするなんて。しかも相手が柳なだけに冗談で返して良いのかも微妙な所だ。てっきり柳は女を見る目が有ると思っていたのに、何でしょうねこの展開は。馬鹿じゃん。

なーんていう思考はちゃんと隠して、私はそっぽを向いた柳の視線に合わせるように体を移動させた。珍しく開かれた切れ長な目と、それとは対照的な自分の潤んだ(潤ませたが正解)目を、ジッと見つめ合わせる。数秒後、観念したように先に逸らしたのは柳だった。



「勘弁してくれ。お前にその目をされると調子が狂う」

「じゃあ冷たい事言わないでよ」

「わかったから」



柳がどういう感情を持って私と千歳との間柄に嫉妬したのかは分からない。友愛からの独占欲か、はたまた恋愛からか。ただね柳、もしその感情が後者だとしたら、こんな女に惚れるなんて相当騙されてるよ、アンタ。そして、騙してごめん。

でも、やめられないのこの優越感!
 3/3 

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