「あれ?豊崎さん?」

「あーーっ!!朝の貧血美女!!」



入口から姿を現したのは、眼鏡をかけた真面目そうな人、お隣の幸村さん、そして朝私にレッドブルをくれたワカメ君だった。3人中2人が顔見知りである事に驚いているのは私だけでは無いらしく、2人も目を見開いてこちらを見つめている。ていうか貧血美女ってどんなネーミングセンス、と内心苦笑したのは内緒だ。



「なんじゃ、知り合いなんか?」

「幸村さんはマンションのお隣さんで、黒髪の子は朝電車で具合が悪くなった所を助けてくれたの。人の縁って凄いね」

「具合が悪かった?大丈夫なのか?」

「あぁ、それはもう大丈夫。その子がレッドブルくれたから」



心配そうな表情をして来た柳を軽くかわして再度ワカメ君に向き合うと、その表情はまさに喜色満面だった。私の隣に座るなりニカッ、と白い歯を出して笑って、次に元気に自己紹介をして来た。名前は切原赤也君、この辺りにある大学の4年生で、ゆくゆくは私達と同じインテリア系の会社に就職したいらしい。私はその進路を聞いて、先輩達の背中を真っ直ぐに見て来た素直な子なんだなぁと思った。



「第一希望は律子さんが行ってるトコなんすよ!」

「へぇ、課もインテリア課を志望してるの?」

「いやー、俺はデザインとかはあんま向いてないんで、どっちかっつーと接客やりたいッス!作業しながら色んな家具見れるし!」



他の人が口を挟む隙も無い程に話す赤也君を、此処にいる人達は皆笑顔で見つめている。成程、赤也君が先輩の事を大好きなように、この人達もこの子を随分と可愛がって育てて来たみたいだな。その事を微笑ましく思い笑みを浮かべると、赤也君の隣にいる幸村さんと目が合った。ちなみに席順を説明すると、半円形のカウンター席に左から丸井、柳、私、赤也君、幸村さん、そして先程名前を教えてもらった柳生さんという感じだ。

幸村さんは私と目が合うなり持っていたグラスを軽くクイ、と上げて来たので、私も同じようにグラスを持ち上げた。持ったついでに残りのお酒を全て喉に流し込めば、タイミングを見計らったように仁王さんが新しいお酒を出してくれた。



「ありがとう。これは何のお酒?」

「パナシェっちゅービアカクテルじゃ。ビールとレモネードを混ぜたもんぜよ」

「へー、仁王さんおっしゃれー!あ、俺ビール飲みたいッスビール!」

「赤也はいつになったら成長するんかのう」

「一生無理だろぃ」



多分仁王さんは、さっきから私が柑橘系のものばかりを飲んでいたからそれに見合ったお酒を出してくれたんだろう。さっすが気が利くなーと思いつつそのパナシェとやらを一口飲んでみると、それはそれは美味しくて思わず顔が綻んだ。隣では赤也君もビールを一気に飲み干して、「うんめぇー!」大声で喜んでいる。



「お、もう全員揃ってんのか」

「待たせたな」

「あー!ジャッカルさんに真田さーん!いらっしゃーい!」

「切原君、貴方のお店じゃ無いでしょう」



そうしてしばらくお酒を楽しんでいると、またもや入口の方から鈴の音が鳴った。入って来たのは褐色肌でスキンヘッドの人と、見るからに厳格そうな人だった。2人を出迎えた赤也君は既にホロ酔い状態で、それを見た柳生さんが苦笑しながら言葉を投げかける。もっとも、それは届いてるはずが無いけど。



「む?見ない顔だな」

「弦一郎、ジャッカル、紹介する。俺と丸井と同じ会社の豊崎だ」

「初めまして、豊崎律子です」

「ジャッカル桑原だ、よろしくな」

「真田弦一郎だ。俺も来月からお前達の会社に見習いで就く事が決まった、これからよろしく頼む」

「あ、俺も決まったぜ。就くのはお前達の会社じゃねーけど」

「見習い?」



とりあえず全員が揃ったので、私達は仕切り直しにもう一度乾杯をした。各々喉を潤してから真田さんと桑原さんに質問を投げかけてみると、どうやら2人は建築士の資格を取る為に修行中の身らしい。建築士になるには数年の実務経験が必要なので、今はその経験期間という事か。それで、ウチの会社に見習いとして入る事になると。あれね、いわゆる見習い職人ってやつね、成程。

事の経緯を理解するなり、真田さんとじゃあ同僚になる訳だし、という事で、私達はお互い呼び捨てで呼び合う事にした。それを聞いていた他の人も呼び捨てで良いと言ってくれたので、遠慮なくそうさせてもらう事にする。正直さん付けするのは面倒くさかったし丁度良い。



「柳生と幸村は何の仕事をしてるの?」

「私は、ローン組立を主に仕事としています。よく豊崎さん達の会社から組立を依頼される事があるらしいので、いずれご一緒するかもしれませんね」

「その仕事ってどんな内容なんすかー?」

「えーと…。例えば、家をリフォームした時にかかった費用をいっぺんに払わずに分割払いしたい、などといった時にそのプランを練る仕事、といえばわかりやすいでしょうか」

「あぁ、オッケーっす!」



私もいまいちわからなかったけれど、赤也君が素直に質問してくれた事によりその疑問は晴れた。危ない危ない、有名大学卒の名が廃れる所だった。



「俺はインテリアショップを経営してるよ」

「え、幸村も仁王と同じく独立してんの?」

「んー、どうなんだろう。雇われ店長みたいなもんだから独立では無いかな。自分がデザインした商品も中にはあるけど、全部が全部そうな訳じゃないし」

「幸村君は凄いんだぜぃ。大学の時に働いてたショップの店長に気に入られて、そのまま店長任されたんだからよ」

「へー…」



それであのマンションに住んでるならさぞかし繁盛してるんだろうなぁ、とまたお金の事を考えてしまった自分がいい加減憎い。いや、幸村の場合育ちも良い感じだし、実家の裕福さも関係してるんだろうけどね。それにしても凄い。



「ちなみにこの油絵も幸村がくれたんじゃよ」

「その絵、入った時から凄い綺麗だなって思ってたの。何の花?」

「カンガルーボーっていって、仁王の誕生花なんだ。花言葉は不思議」

「仁王君にぴったりの花言葉ですね」



次々と明らかになるこの人達の特長は、その度に私を驚かせた。センスもあって財力もあって顔も良いって、何このイケメンパラダイス。より取り見取りじゃん。…ていうのは置いといて、本当に凄いなぁ。

まるで人造人間みたいだ。



「…あ」

「どうかしたか?」

「あ、いや、ごめん何でも無い」



そこまで考えた所で思わず小さく声を漏らしてしまい、隣にいる柳が反応して気にかけてくれたけど、急いで平然を装ってまたお酒を煽る。

 人造人間は、私の方だった。

でもまぁ、どの方向に顔を向けてもイケメンしか目に入らないこの状況は人造人間の私だからこそ手に入れられたようなもんだし、今更気にしてもしょうがない。利用したもん勝ちだ。そう無理矢理思考を遮断したから顔には出ていないと思ったけど、私の顔を食い入るように見つめていた柳、幸村、仁王に若干嫌な予感がした。鋭いのは、時に凄く厄介だ。
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