「友達のカフェバー?」

「あぁ。会社からもそう遠くない場所にあるんだが、良かったら行かないか」



白石と不二はまだ仕事の区切りがついてないらしいので、私と柳は2人でいつものカフェに来た。テラスに座って気持ちの良い陽射しを受けながら、日替わりメニューのロコモコ丼を食べ終わって食後のコーヒーを飲んでいた時、柳はそんな話題を出して来た。なんでも、学生時代の友人がこの辺りに昼間はカフェ、夜はバーになる所謂カフェバーを開くらしく、今日の夜にでもそこに行かないかという誘いだった。ちなみに開店は来週を予定しているらしいので、今日はプレオープンという形になる。イコール、客は招待された人しか来ないから、混雑する事無くゆっくりとした時間を過ごせる、っていう事だろう。



「うん、別に予定も無いし良いよ。お酒は美味しいんでしょうねー?」

「全てにおいてセンスのある奴だ、そこらへんの心配は無用だろう」



確かに、この歳で独立して自分の店を持つという偉業を果たすような人なのだから、センスは有るに違いない。加えて逸材揃いの柳の友人と来た、これは期待する価値がありそうだ。美味しいお酒はこう見えて大好物なので、私は急に入った夜の予定を早速待ち遠しく感じた。

それからおかわり無料のコーヒーをもう1杯飲んだ所で、私達はカフェを後にした。もしかしたらランチの場所が新しく増えるかもしれないな。胸に抱いた淡い期待に浮かれつつ、私は残りの仕事を終わらせる為再度デスクと向き合った。楽しみを見つけてみるのも、案外良い暇潰しになりそうだ。



***



そして、終業後。



「今日は同じ学校だった奴らが集まる事になっている」

「あら、そんな中にお邪魔しちゃっていいの?」

「何、全員都内に住んでいるのだから集まろうと思えばいつでも集まれるさ。それに、華が無いから連れて来いと行ったのは仁王の方だ」

「私で華になるならいいんだけどね」



とか謙虚ぶっちゃったりしてみる、という心の内は口には出さず本当に謙虚しているように苦笑すれば、柳は「充分すぎる位だ」と言ってくれた。そんな前までは決して味わう事の出来なかった優越感を噛み締めている間に、どうやらそのカフェバーに到着したらしく柳の足が止まった。



「同じ学校だった人達、って事は丸井もいるの?」

「あぁ、もう先に着いているらしいぞ」

「早上がりだったんだねー」



外装からモダンな雰囲気を醸し出しているそこに、チリンチリン、とドアについている鈴の音を響かせながら足を踏み入れる。この時間帯はもうバーに切り替えられているので店内の照明は暗めに設定されており、入るなり目に入った膨大な数のお酒と綺麗な花の油絵に、柄にも無く心が踊った。



「お、豊崎と柳じゃん。おっつかれー」

「あぁ、お疲れ。まだ丸井1人か」

「お疲れ様。早速飲んでるのね」



店の中心に作られたカウンター席に丸井は座っていたので、私と柳もそこに腰を降ろす。店員らしき人がいないのを見兼ねた柳が「仁王は何処だ」と丸井に問いかけると、奥の方から「此処にいるぜよー」という独特なイントネーションの声が聞こえて来た。白石といいW忍足といい千歳といい、私の周りには方言を使う人が多いなぁなんてしょうも無い事を考える。

そうして数秒後に奥から出て来たのは、綺麗な銀髪を一纏めにし片側の髪を耳にかけている、端正な顔立ちをした男性だった。最近はイケメンを見る機会が一気に増えたけど、ここまで雰囲気のあるイケメンはこの人が初めてだ、と内心感服する。



「ほい、グリーンアップル風味のワイン。甘い割にアルコール度数高いから少しずつ飲みんしゃい」

「ひゃっほい、最高ー!いっただきまーす!」

「丸井、あまり飲みすぎるなよ。お前は酒に強く無い」

「ウチの店汚したらただじゃ置かんきに。んで、お前さんがこいつらの同僚か?」

「あ、はい」



まじまじと仁王と呼ばれた人を観察していると、不意にその双眸が私を捕らえた。突然の事に一瞬驚きつつ、鞄から名刺を取り出して軽く自己紹介をする。すると仁王さんも自分のポケットから、シンプルだけどデザイン性のある名刺を差し出してくれた。仁王雅治、っていうんだ。



「まさかこげん綺麗な華を連れて来るとは思っとらんかったのぉ」

「やっぱ仁王もそう思うだろぃ?なのに豊崎って全然飾ってねーし、おまけに嫌味っぽくもなくて、すげー良い女なんだぜぃ!」



既に若干酔いが回ってるのか、妙に私を褒め殺す丸井に「そんな事無いよ」と苦笑しながら対応する。実際本当にそんな事無いんだけどね、飾って無いのも嫌味っぽくないのも全部そう見せてるんだし。本心は、どうもー!皆の高嶺の花の豊崎律子でーす!って感じだもの。



「他の奴らは何時頃来るんだ?」

「幸村と柳生はもうそろそろ来るぜよ。真田とジャッカルはちょいと遅れるって言ってたかのぉ、赤也は講義が終わり次第即行で駆け付けるそうじゃ」



次々と挙げられた名前の中には、つい昨日知り合いになったお隣さんの名字と同じものがあった。でもまさか同一人物な訳は無いと思ったので、私は何も言わずに出されたカクテルをちび、と一口口に含んだ。



「つーか此処昼間はカフェになるんだろぃ?メニュー見せろよ!何食うか今のうちに決めとくから!」

「相変わらず食の事となると抜かりないな。気が早すぎるだろう」

「ほんまじゃ、ちっとは痩せたんか?豊崎を見習いんしゃい」

「うるせー!」

「確かに丸井肉付き良いもんねぇ」



茶化す2人に便乗し、私もそう言いながら丸井のお腹をスーツの上からつまんでみると、思いの外贅肉があって思わず笑った。それに丸井は不満げに口を尖らせ、2人も私と同じように笑っている。

と、そんな風にお酒の力で段々と賑やかになって来た店内に、チリンチリン、と2回目の鈴の音が耳に入った。



「…あれ」



そして私は、入って来た人物に若干目を見開く事となった。
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