何を考えているんだか

ごくたまに買い物に行き、帰りにコンビニでアイスを買い占め、家に着けば借りてきたDVDや買ってきた雑誌を読みあさり、昼寝をして、ご飯を食べて、ゆっくりお風呂に入って、寝て。次の日はもちろん昼時まで爆睡。テニス部の人達は本格的に練習をしてるからうちには来ない。だから邪魔されることもない。

そんな素晴らしすぎる夏休み生活を送っていた私だが、



「晴香ー!起きなさーい!!」

「大阪行くでー!」

「…」



まさか家の中に邪魔者が潜んでいたとは、思ってもなかった。



***



「晴香、着いたわよ!」

「…ん」



朝からお父さんとお母さんに叩き起こされて、何故か私は2人と共に大阪に来てる。車に乗ってる間は勿論爆睡してた。しかも起きてから最低限の身だしなみだけをしてすぐに来たから、朝ご飯を食べ損ねてお腹が空きすぎて気持ち悪い。おえー



「行くわよー大阪観光!」

「せや、美味いモン食うで!」

「(面倒くさいなぁ)」



確かに夏休みは毎年、お父さんの故郷である大阪にわざわざ車で何時間もかけて来るのが恒例になっている。それ自体は慣れてるから別にいいが、唐突に出発を決めるのは本当にやめてほしい。しかもお父さんもお母さんもテンションが高くて正直ついていけないし、大阪観光なんてそんな…今更すぎる。食べ物は美味しいが。



「晴香は何が食いたいん?ん?言ってみいや!」

「なんでもいい」

「もー、冷たいんだからー。お父さんもお母さんも拗ねちゃうわよ!?」



そう言って私の頬を指でつっついてきた2人に、この上ないウザさが込み上げてくる。なんだこれ、本当にウザい。



「わかった、わかったから。美味しいものなら何でもいい」

「いっつもそうやなぁー…ま、しゃーないか。ほな適当に回ろか」

「そうね!」



腕を組んでまるで若者のように前を歩くお父さんとお母さん。まぁ2人とも確かに若くは見えるけど、娘の私から見ると仲良しというよりただのイタい人達だ。

そんな訳で2人から少し距離を置いて歩くこと数十分、私達家族は適当な定食屋に入った。席についてからもウダウダと注文を決めるのにいつまでも迷ってる2人が鬱陶しかったから、腹いせに丼物を3つ頼んでおいた。



「相変わらずよく食うなぁ晴香は!母さんそっくりや!」

「そうねー、体型は違うけど」

「母さんも充分細いで?」

「あらっ!やだもーお父さんったらー」



娘を相手にするのか2人の世界に入るのかどっちかにしてほしい。出来る事ならずっと後者の世界にいてくれて構わないんたが。

そうしてしばらくして注文が届き、遠慮することなくそれらを頂く。美味しい。で、あっと言う間に平らげて、観光好きな2人の為に早々にそこを出た。



「さーてじゃあ「田代?」…ん?」

「やっぱそうや!田代や!」



すると、前から歩いてきた人が急にお父さんに話しかけてきた。年齢的にはお父さんと同じくらいだと思う。状況が読めない私とお母さんはアイコンタクトを取る。お父さんも初めは誰かわかってなかったみたいだけど、次第にあぁ!、と言ってなにやら話し始めた。

一言、誰。



「紹介するで、大学ん時一緒やった白石や!」

「どーも、白石言います」



しかし、そう思ったのも束の間、この人の名前は白石さんといって、どうやらお父さんの同級生らしい。お母さんは誰かわかるなりすぐに2人の間に入って会話に加わり始めたけど、私は軽く会釈をする程度で済ませた。だって、さっきから鼻に入ってくるたこ焼きの匂いに気が向いてそれどころじゃないんだもん。

そんな風に私が食欲と戦いながらその場に立ち尽くしていると、3人は急に私に笑顔で話しかけてきた。



「晴香、今日は予定変更や!白石んちお邪魔するで!」

「狭いとこやけど来てなぁ」

「貴方がさっきから食べたがってるたこ焼きもご馳走してくれるって!」

「おじゃまします」



お母さんの言葉が決定打となり、私は容易く了承の言葉を出してしまった。というか私がたこ焼きを食べたがってるのなぜわかったんだお母さん。



「ま、今日はうちでゆっくりして昔話に花でも咲かせようや」

「せやな、おおきに白石!」



ま、無駄に歩き回らずにすむしいっか。
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