海底へさようなら

先日、テニス部が関東大会で見事優勝を勝ち取った。立海は全校応援を行った為その時の生徒達の盛り上がりはしっかり覚えてる。とは言っても、去年は全国優勝を果たしているからか肝心のテニス部員達はまだまだ物足りない、というような表情をしてたのが印象的だった。特に真田君は更に険しい顔になっていて正直ちょっと引いた。



「あー、明日からぜってぇ練習きついよなぁ…」

「今年は柳んとこのペンションで合宿をするみたいじゃからのう。更に過酷になるぜよ」

「うわー無理!」



隣の席で愚痴たれる丸井君は、暑さにもやられてるのか体をぐでーんと机に乗せている。仁王君はなぜか涼しげだ。摩訶不思議。



「っつーかお前もっと応援しろよな!お前だけ浮いてたぞ!」

「してたつもりだが」

「確かにメガホンは持っとったのう。ブン、田代に多くは求めちゃだめなり」

「ぶー…」



そこで吐かれた不満は私にとって疑問でしかなく、更に項垂れた丸井君をややしかめ面で見つめる。一応試合の光景はしっかりと目に焼き付けていたし、応援もしてたつもりなのだがどういうことだろう。でも、正直メガホンは日焼け対策に活用していたのは内緒だ。



「いいよなぁ田代は。夏休み満喫だろぃ?」

「大丈夫だ、丸井君の分までしっかり寝ておく」

「おんまえ…っ!」

「天然は怖いぜよ」



相変わらずだらしない姿勢でネチネチとうるさい丸井君に言葉を返せば、もしかして嫌味と捉えられてしまったのか、何やら彼は威嚇し始めた。と思ったら何を血迷ったか、私の髪を思いっ切りぐしゃぐしゃにして乱暴に撫で回して来る。別に特別セットなどはしていないからそこまで支障はないが、なんせ視界が狭い。そして面倒臭い。



「田代!夏休み中遊ぶぞ!」

「そんな暇無いだろう」

「合間を縫ってだっつーの!」



乱暴な行動に無茶な誘い。その2つにいい加減呆れて軽く溜息を吐けば、ふと仁王君から視線を感じた。だから盗み見るように視線を向ければ意外にもがっつり合ってしまい、そのままなんともいえない空間が漂う。こんなに凝視されるとは、私の顔になんかついてるのだろうか。



「…田代って、目逸らさんね」

「そうか?特に意識はしてない」

「吸い込まれそうになるぜよ」

「それはやだ、私の目が痛くなる」



そう思いきややっぱり仁王君は変なことを言って、しまいにはクツクツと喉を鳴らして笑いだした。最近この人の方向性が掴めないのは気のせいだろうか。まぁ、掴んだところで何も無いから別に良いのだが。

しょうもない考えに脳内で自問自答していると、担任の「おいお前ら廊下並べー終業式始まるぞー」というやる気のない声が教室に響いた。それに対し生徒達も同様にやる気のない返事をする。丸井君は式の間味が薄れてしまわないようにか、大量のガムをいっぺんに口に含んだ。



「おら、お前にもやる!」

「ん」



すると突如私の口内にも、丸井君が常備しているグリーンアップルのガムの味が広がった。少しミントっぽい感じもする。美味しい。



「ブン、俺にも」

「へいへーい」



集会は面倒な上に暑くてやってられないが、これさえ終われば後は楽しみなことしかない。ビバ夏休み。ひたすら睡眠をとれる素晴らしい休み。この単語ほど今の私の心を満たしてくれるものはないだろう。
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