ファンファーレをあげましょう

「貴方が田代晴香さんですね!?今日という今日は絶対に逃がしませんよ!」



面倒臭いのに捕まった、瞬時にそう判断した。



「なぜいつも注意しているのに貴方はことごとく無視をして───…!」

「(あぁー眠い)」



いつも通り、ウォークマンを聴きながら眠たい目をこじ開けて自転車登校していた、ある朝の事。今日は珍しくあのうるさい眼鏡の風紀委員がいないなぁなんて考えながら自転車置き場にて鍵をかけていると、茂みの中から例の風紀委員が急に姿を現した。驚いたし、若干引いた。



「聞いてますか!?」

「…え、あ、はい」

「絶対に聞いてなかったでしょう!!」



プリプリプリプリ(何だか仁王君みたいになってしまった)、忙しいなぁこんなに怒って。まぁその原因は100%私にあるのだろうが、正直頭に葉っぱやら色々付けている状態で言われても説得力も何もない。むしろ私1人のためだけにずっと茂みに隠れていたのかこの人は、なんていう暇人だ。そんな無情な考えばかりが頭の中を駆け巡る。



「ということで、明日からはちゃんと校門に入ったら自転車から降りて下さいね!?」

「…え、あ、はい」

「だからああぁああぁ!!!」

「そんな気を立てずに」

「誰がこうしてると思ってるんですか!」

「私ですよね?」

「自覚してるなら少しはその意を見せて下さい!」



とにかく、明日からは…えーっと、なんだっけ。まぁいいや、どうせ明日になればこの人はまた私に注意してくるだろう。その時に直せばいい、大した事じゃ無かった気がするし。



「今日はもうチャイムが鳴るのでこの辺にしておきますが、明日からは頼みますよ!?」

「はぁ」

「私は風紀委員2年A組の柳生比呂士です!問題児の貴方を私が更生するので覚悟しておいてくださいね!」

「問題児…私がなんかしたか?」

「あの泣いても良いですか」



その言葉を区切りに柳生君とやらは本当に涙を流し始めた。これは慰めるべきか?んー、いいや。私が原因な訳だし私が慰めた所で皮肉にしかならないだろう。だから私は教室に行く為にその場から立ち去った。



「(今日の1時間目は…生物か、面倒だな)」

「こらああぁああぁ!!」



と思ったら、再び柳生君が後ろから追いかけてきた。なんだか凄い気迫だな。



「あ、晴香せんぱ…うわっ、誰すかあの人!?」

「よくわからない」

「と、とりあえず逃げるっすよ!!」

「わぁ」



玄関付近まで来ると、遅刻ギリギリだったのか走って来た切原君と遭遇して、そしてそのまま腕を引っ張られ逃走劇が始まった。何故朝からこんな疲れる思いをしなければいけない、私の頭の中はそれでいっぱいだった。とりあえず切原君、足速い。



***



「おっはよー田代!」

「…おはよう」



教室に着いたら着いたで、今度は丸井君の相手をしなければいけない。前の席にはいつも通り何を考えてるかわからない仁王君がいて、思わず盛大な溜息が出る。



「なんだよ田代、朝っぱらからんな溜息吐いて。幸せ逃げるぜぃ?」

「とっくのとうに逃げている」

「なら俺がやるよ、幸せ!」

「あぁ、ありがとう」

「うわー適当ー」



私の投げやりな解答に丸井君は拗ねたのか、それからずっと田代ー、田代ー、と私の名前を呼び続けた。結構ウザいのは言うまでもない。



「お前さん、今柳生に追いかけられてきたじゃろ」

「…何故それを?」

「窓から見てた。柳生に目付けられたんか?」

「理由は知らないが、どうやら私は問題児らしい」

「柳生はとことん相手にされないのぅ」



どうやら会話の雰囲気からして、仁王君は柳生君と知り合いのようだ。ならばここは1つ、一か八かで頼み事をしてみよう。そう思った私は、珍しく彼の目をはっきりと見つめながら背筋を伸ばし、真剣な表情を繕った。



「仁王君、お願いがある」

「田代がお願いとは珍しいのぅ」

「柳生君をどうにかしてくれ」

「ダイレクトー」



眠くて仕方ない朝は音楽を聴いてテンションを少しでも上げていかないとやっていけないというのに、それを怒声で邪魔をされてはこっちとしても芳しくない。きっと柳生君的にも面倒だろう。



「だから、仲裁に仁王君が入れば一石二鳥だと思うのだが」

「うん田代、“だから”ってなんも話つながっとらんぜよ」

「すまない、脳内で勝手に会話してた」

「で、そっからどうつながるんじゃ?」

「…話すのが面倒だ」

「俺いい加減拗ねるぜよ」



そうは思うものの、実際仁王君に言ったところで状況が変わるとは思えない。彼の場合逆に楽しんできそうだし。となれば、こうなってしまった以上自分でなんとかする他ないか…。これから先、今までよりも更に憂鬱な朝になりそうだ。それを確信した私は、邪念を振り払うようにかぶりを振り、視線を下げた。



「なぁ仁王、柳生ってお前がテニス部に勧誘してるあの眼鏡だろ?」

「ブン、口が悪いなり。正しくは変態眼鏡じゃ」

「(更に悪くなっているのは気のせいじゃないよな)」



それから仁王君と丸井君は部活の話を始めたから、私はいつも通り机に突っ伏して寝る事にした。あ、そういえば今HR中だった。
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