低血圧の眠り姫

「晴香先輩!晴香せーんーぱーいーっ!」



正直に言おう、



「俺、今日アイツらぶっ倒してくるッス!!」



うるさい。



***



「切原の奴、すっかり田代に懐いとるのぅ」

「ぜんっぜんわかんねぇ」

「別に懐かれたくて懐かれたわけじゃない。わからなくて当然、むしろそれで結構」



私の発言に腹を立てたのか、丸井君はまた仁王君にネチネチと愚痴をこぼし始めた。いつもならこうなるのが面倒だから反応しないようにしているのだが、今日つい反応してしまったのには理由がある。それは、切原君が熟睡していた私を無理矢理起こしてまで訳のわからない宣言をしてきた事、これに尽きる。

倒すって何をだ。アイツらって誰だ。話の趣旨が全く読みとれない。嗚呼、せっかく気持ちよく寝ていたというのにイライラする。そこでふと視線を感じた方に目を向けると厭な笑みを浮かべている仁王君がいて、更にイライラした。



「何だ」

「あーんなかわえぇ後輩の男の子に懐かれて嬉しくないんか?」

「その問題も君の笑顔も不快だ」



この私の状態を見て嬉しいと感じているともし思ったのなら、確実に仁王君の目は節穴だろう。



「お前さー、もっと愛嬌持てよ」

「…寝る。」

「なんだそれ」



呆れた物言いの丸井君の声が耳に入る。そんな台詞はこれまでに何回も言われてきたが、直らない物は仕方ない。母親にもあんたはお腹の中に色々忘れ物をしすぎだ、と言われたくらいなのだから。

窓の方に顔を向けて、腕を枕に瞳を閉じる。授業が始まる予鈴が鳴ったがもうこの際気にしない。楽しさなど最初から求めていないが、いくらなんでも憂鬱すぎるこの日々。私はこのまま腐った生活をずっと送っていくのだろうか、と柄にもなく真剣に考えた。でも、結局面倒くさくなって1分で思考を遮断した。丸井君、ガム噛む音うるさい。



***



「(つっまんねーの!)」



期待してたクラス替えで、仁王と同じになれたまでは良かった。後は俺的には他にもかわゆーい彼女を作って、テニスも頑張って、順調に学校生活を送っていこうと思ってたのに…なのに!!



「丸井君」

「んあ?」

「ガム、口を閉じて食べてくれないか。気が散る」



隣がこんな無愛想女ってどういうことだよぃ…あーマジ早く席替えしてー。そう内心で愚痴を吐きまくりながら無愛想女、田代を睨みつける。

でも、何故か仁王は田代によく構うんだよなぁ。確かに、百歩譲って見た目はまぁ良しとする。俺のタイプでは無いけど。でも問題なのは中身だ、これで愛想が良くて話しやすい感じだったらそこそこ人を寄せ付けるだろうに…色々損してんなぁ。どうでもいいけど!!



「…何か?」

「…べっつに!」



俺が今みたいにじっと顔を見つめれば、他の女子は頬を赤らめたり、笑顔を向けてきたり可愛い反応してくれんのに、田代はぜーんぶ無表情。女は愛嬌っつーくらいなのに、こいつの場合愛嬌の欠片も無い。



「何拗ねとんじゃ」

「拗ねてねーし!」



仁王にからかわれてムカついたからもう1回田代を睨んでみるけど、やっぱり相変わらず涼しげな顔で窓の外を見ているだけだった。中2にしては大人びすぎてるその雰囲気についてけなくて、置いてきぼりにされた感じがして、俺の機嫌は更に急降下する。だから思いっ切り音立ててガム食ってやった!どーだ田代、何か言って来いよ!



***



「(馬鹿じゃのう)」



注意されて、拗ねて、構ってもらえなくて。さっきからそげん状態で堪忍袋の緒が切れたんか、ブン太は注意されたにも関わらずまたガムを音を立てながら食い出した。そんな小学生並の嫌がらせをしてるのを聞いて呆れつつも、引き続き2人の様子に聞き耳を立てる。



「丸井君、うるさい」

「はっ、うっせー!」

「(アホじゃ、完全アホじゃ)」



いやいや、何勝った気になっとるんじゃ。後ろを振り向かずとも、そのいやーに誇らしげな声色でブン太がどんなどや顔をかましとるか一発でわかる。田代は多分相当ウザそうにしとるに違いない。



「それで終わりかよぃ?ん?よっえーのな田代って!」

「ブン太、うるさいなり」



多分ブン太は気付いてないんじゃろうけど、傍から見ると構ってもらいたくて仕方ないようにしか見えん。いや、実際心の奥ではそう思っとるはずじゃ。でもブン太はまだガキじゃからそれを認めたくないんじゃろうなぁ。全くアホじゃのう。だから田代の代わりに俺が姿勢は前に向けたまま注意をすれば、予想通り不満げな声が聞こえてきた。



「丸井君ももういいから前を向いたらどうだ。先生が見ているぞ」

「…うっぜ!」



正論を言ってもどっちにしろつっかかるんじゃな…全く、これじゃ田代があまりにも気の毒じゃ。そう思った俺は、一瞬後ろを向いて田代に目を向けた。



「(…気にしてないんか)」



でもそこには、俺が予想していたような苛立ちに顔を歪ませた田代はおらんかった。代わりに、何にも考えてなさそうな無表情の、所謂いつも通りの田代がおった。あー…この手のタイプ、確かにブン太は合わんかもしれんのう。その代わり一度合ったらずっとブン太が一方的に付きまといそうじゃけど。

ともかく、俺もまだまだ田代に対して未知すぎる。まずは情報集めからじゃ。出番ぜよ、参謀!
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