憂鬱な日々にさようなら 俺、今思えばあん時あそこでコケて良かったって本当に思います。コケてぶっ倒れてたから晴香先輩は近寄って来てくれた、俺に焼き芋をくれたって思うと、本当に良かったって思います。俺、先輩が大好きっす。色々ありすぎてもうこんなメールなんかじゃ伝えきれないけど、どーしてもなんか形に残しておきたくて。絶対保護って下さいよこのメール!でも他の先輩に見せちゃだめっすからね(*_*) とにかく、卒業おめでとーございます。大好き先輩!! 「…ねむ」 朝7時。7時半にセットしているアラームではなく、携帯のメール着信音で起きてしまったのだが、そのメールの内容は口に出た言葉とは裏腹に眠気を覚ますには効果がありすぎるものだった。 今日は、卒業式だ。 「あらおはよう、今日はいつもより早いのね!カレー出来てるわよ!」 「今日は父さん特製ドレッシングのサラダもあるで、ちゃんと食いや!」 「うん」 寝間着のまま階段を降りて台所に行けば、既にお父さんとお母さんは座って待っていた。別に待たなくても先に食べてればいいのに、と思ったけれど、お父さんが今日は特別な日やからな!と言った事によりその考えは心に秘める結果となった。 変な話だ。立海なんて大学までエスカレーター式なんだから、中等部を卒業した所で結局また高等部でも一緒になる。なのに切原君やお父さん、お母さんを始めとした周りの人達は卒業に対して感慨深くなっていて、なんだかこれじゃ私だけが取り残されてるみたいじゃないか。どうせまた一緒だ。どうせ、どうせ。 「いやー、でも朝からカレーはやっぱり俺達には重いでぇ。いくら晴香の好物でもなぁ」 「お母さん、おかわり」 「まだまだ若いのよ、この子は」 そんな風に考えている自分が1番卒業を意識しているという事に、私は気付いていないフリをした。 *** 「じゃーんっ!!」 煌びやかに装飾された校門を通り抜けて教室に着き席に座った瞬間、丸井君はそう言いながら、私の目の前に昨日配られた卒業アルバムを出して来た。唐突な行動に一瞬動きを止め、数秒後なんだこれは、と彼に問いかける。 「田代昨日、アルバム机の中に置いてったじゃろ」 「あぁ、重いからな」 「だから俺達からのプレゼント!」 質問には丸井君だけではなく仁王君も一緒になって答えてきた。が、百聞は一見にしかず。見る方が手っ取り早いと思った私は丸井君からそれを受け取り、自分の机の上に広げた。 球技大会。修学旅行。海原祭。授業風景。様々な行事の様子がたくさん載っているそれに思わず懐かしい気持ちが込み上げてきたが、プレゼントという言葉に乗せられたようなページは未だ見当たらないので、とりあえずパラパラとページを捲り続ける。しかし、そうしているうちに全て見終えてしまった。 「何がプレゼントなんだ?」 「最後までちゃんと見ろよぃ!」 首を傾げる私に痺れを切らした丸井君はそう言って、私が手を止めたページよりも更に後のページに手を付けた。このページ以降は確か白紙なのにどうして、と思ったが、私の目に白紙は映らなかった。 「…何だこれは」 「メッセージなり!」 見開きで8ページ分あるはずの白紙は、全て汚い字や雑な字、綺麗な字や達筆な字で埋まっていた。 愛してるッス!!! だーいーすーきー!またケーキバイキングいこーなー!天才より ピヨップリップピーナ、大好き田代 2年間ありがとうな。高校でもよろしく頼むぜ。ジャッカル桑原 卒業おめでとうございます。これからも何卒変わらずによろしくお願いします。柳生比呂士 高校では偏食に気を付けるんだぞ。柳蓮二 祝卒業 真田弦一郎 ばーか。田代のばーか。幸村 「見事に全部埋めてくれたな」 「だって、俺達からだけでいいだろぃ?」 1人1ページを使ってでかでかと書かれた個性溢れるメッセージに、溜息と同時に思わず笑いがこぼれる。そんな私の様子を見て、2人は作戦成功とでも言いたげに拳を合わせた。 その後に次は自分のに書いてくれ、と頼まれたので、私もこの人達と同じようにそれぞれ1ページ丸々使って書き渡すと、丸井君は不満そうな、仁王君は笑って反応した。 「豚の絵だけってどういう事だよぃ!!」 「我ながら傑作なんだが」 「これプーちゃんの絵じゃろー?かわえぇー」 「当たり」 高校でもこの人達と同じクラスだったらさぞかしうるさいだろうな、と、漠然と思った。 |