拒否権なんてありません

新年特有の慌ただしい雰囲気も収まり、ついでに1週間前から学校も始まり。今私達は、始業式後に行われた書き初め大会の作品が展示されている視聴覚室に来ている。とはいえ、まさか全校生徒分の書き初めを1つの教室に収められるはずがないので、此処にあるのは2年生の前半クラスの作品だけだ。となると、2年D組の切原君の作品も必然的に此処に貼り出される事になるというわけで、それを私達は見に来たというわけで。



「なんだ赤也この字は!まるでなっとらんではないか!」

「しょーがないじゃないっすか、あんなでっかい筆で上手く書ける方がおかしいんっすよー!」



真田君の怒声も飛ぶわけで。



「まぁまぁ、赤也なりに一生懸命書いたんだしよ、そう言ってやるなよ真田」

「ジャッカル先輩…!なんかフォローされてんのかいまいちわかんないけど、大好きっす!」

「にっしてもひでぇー字!写メ撮ろーっと!」

「ブンちゃんも野暮な事するのう。後で俺にも送っといて」

「先輩達は嫌いっす!!」



予想通りと言ってはなんだが、切原君の書き初めはまぁ酷い。文字はへにゃへにゃだし辺りに墨は飛び散ってるし二度書きの跡はばっちりあるし、極めつけに字も間違っている。そんな散々な彼の作品を見て私達はいずれも微妙な反応を示したが、1つだけ微笑ましい要素もある。



「…ところで赤也、この書の四字熟語は何処から引用したのだ?」

「え?あぁ、サンタさんがくれたプレゼントに書いてたんっすよ!なんか真田副ブチョみたいなサンタさんっすよねー。でも意味調べてみたら良かったんで真似しちゃいました!知ってます?オンコチシンって読むんすよ!」

「し、知っとるわそれくらい!!」



そう、自分で決めて良い書き初めに使用する言葉に、クリスマスに真田君が切原君に送った“真田の書”に書いた言葉をそのまま引用しているという所だ。最初に一目見た時から私達は気付いていたが、今の2人の会話でやはりあれが関係していたか、と確信した。真田君はわざと大声をあげているが、表情からこの事をどれだけ嬉しく思っているのかがすぐにわかる。



「温故知新。意味は、古きを温め、新しきを知る。経験のない新しい事を進めるにも、過去を充分に学ぶ事から知恵を得ようという事、でしたね」

「まさにこれからのお前にはぴったりだろう」

「さっすがサンタさんだ。良かったね赤也」



幸村君はそう言って切原君の頭を撫でたが、そのどう考えても真田君をおちょくっている発言によって仁王君と丸井君はブッ!、と噴き出し、口元に手を当て必死に笑いを堪え始めた。柳生君と桑原君は苦笑いで2人の背中をさすり、横にいる真田君は恥ずかしそうに拳をプルプルと震わせている。私の隣にいる柳君はいわずもがな涼しげな表情だ、つまらない。



「へへっ、良かったっす!古きを温め新しきを知るっす!ねー先輩っ!」

「あぁ、っ?」



すると、切原君は突然私と柳君の間に向かって飛び付いて来た。急な出来事に私達は反射的に片腕ずつを出し、彼を受け止める。まるで小さな子供のようなその行動に呆れ、笑った。



「さーて、じゃあ次は3B三馬鹿のを見に行こうか」

「ちょっと待て幸村君、三馬鹿って何で私も入ってるんだ」

「酷いなりー。雅治泣いちゃうー」

「つい今さっきまで散々笑っといてよく言いますよ…」

「おっマジマジ?俺らのも全員で見にくんの?いやー恥ずかしいなー!でも力作だからな、覚悟してろぃ!」



自信満々に胸を張りながらそんな事を言った丸井君だが、「大盛最高」という書き初めを皆に見られて一斉に頭を叩かれていたその様は、なんというか馬鹿そのものだった。
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