そんな君が好きだよ

「…眠い」

「アーン?何か言ったか?」

「堪忍な、跡部言い出したら聞かへんねん」



今私は何故か、跡部家の自家用ヘリに景吾君と忍足君と一緒に乗っている。時は日曜日の午後1時。学祭後ということで疲れ切っていた体を休める為に、こんな時間まで惰眠を貪っていたのが元凶なのだろうか。



「何故わざわざこんな大がかりな交通手段を選んだんだ」

「これが1番早ぇからに決まってんだろ」

「めちゃくちゃやな」



突如私の家に来た2人は、私の寝起きの状態を見たにも関わらず当たり前のように、今から俺の家に行くぞ、とか言い出した(まぁ2人というか主犯は景吾君だけだが)。勿論唐突にそんなことを言われても対応出来るはずもなく、面倒だから二度寝しをようと試みたのだが、そうする前に景吾君にベッドから無理矢理引きずり出された。そして無理矢理着替えを要求され、無理矢理身支度をさせられ。唯一無理矢理じゃなかったことといえば私の親から許可を取ることくらいで、お父さんもお母さんも二つ返事で私の事を送り出した。なんと薄情な、娘を売るなんて。

そして今に至る。



「着いたら起こすからそれまで寝とってえぇで」

「ヘリコプターのバババババって音がうるさくて眠れない」

「お前もそんな擬音語言うようになったんだな」



景吾君のよくわからない感心のし所はこの際無視だ。私は苦笑している忍足君を横目に、窓から外の景色を見下ろした。目に入った立海の校舎を見て、テニスコートで練習している切原君が見えるかなぁなんて思わず探してしまったのは内緒だ。



***



「嬢ちゃん、着いたで」

「…ん」



煩くて寝れへん、とか言っとった割にはすぐに眠りに着いた嬢ちゃんの肩を揺らすと、目をゴシゴシと擦ってでっかい欠伸をして、今度は俺の肩に寄り掛かって目を閉じた。っていやいや、あかんやろ。



「二度寝はあかんで、起きぃや」

「嫌だ、眠い」

「我儘もあかんて、跡部が怒るで」



俺がそう言えば嬢ちゃんは仕方なしに起きて、外で待っとった跡部の手を借りながらヘリから降りた。そして目の前の跡部邸を見るなり数秒固まり、ゆっくりと俺の方を振り向く。



「何だこれは」

「ウチの日吉と全く同じ反応やな。驚く気持ちもわかるけど入りや」

「ビビってんじゃねーぞ」

「流石にビビるぞこれは」



ドヤ顔な跡部に連れられながら、嬢ちゃんは恐る恐る足を進め跡部邸に入って行く。それを後ろから見る俺。なんかあれやな、小動物みたいやなぁ。



「景吾君、今日は誰がいるんだ」

「ウチの奴ら全員だ。ジローがお前に会いてぇってきかなかったんだよ」

「へぇ」



跡部の言葉になんの感動もなさげにそう返事をした嬢ちゃんは、なんちゅーかやっぱり変わっとると思う。しかもこいつら普通に手繋いだままやけどこれが普通なんやろか?…おかしいやろー。



「晴香、忍足、先部屋入ってろ。メイドに菓子を持ってくるよう言ってくる」

「わかった」

「了解。なんや、もうあいつら来とるんか。部屋の外までうっさい声聞こえとるやん」

「静かにしろっつったところであいつらが聞くはずもねぇし、ほっとけ」



という訳で跡部はそのまま廊下の奥を進んで行って、俺と嬢ちゃんは目の前の部屋のドアに手を掛けた。

が。



「ぶふっ」

「ちょっ、大丈夫かいな!?」

「おっ、侑士やっと来たー!って晴香もいんじゃん!どうしたんだよ?鼻押さえて」

「む、かひくん、痛い」

「あー?何がー?っつーか思ってたけど向日君ってやめろよな!岳人でいーぜ!」



あれやな、無垢ほど恐ろしいものはあらへんな。状況を説明すると、岳人が中からドアを勢いよく開けたせいで、外からドアを開けようとしてた嬢ちゃんの顔にクリーンヒットしたっちゅー感じや。岳人は全くもって気付いてへんけど。



「まぁお前ら入ってろよ!俺ちょっと便所行って来るから!」

「はいはい、廊下は走ったらあかんで」

「い、行ってらっしゃい」



嬢ちゃんも岳人が気付いてへんから気を遣ってなんも言わへんみたいやし、案外優しいんやなぁなんて思ったり。

とまぁ初っ端からハプニングがあったけど、ようやく俺達は部屋に足を踏み入れた。嬢ちゃんが俺達の中におるのは不思議な感じやけど、別に違和感は無かった。
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