可笑しな具合になって来た

「ギャハハハッ!!やっぱ田代かわいー!!」

「よく似合ってるぜよ、ブフッ」

「笑うな噴き出すな」



海原祭当日。

通常の登校時間よりも早めに学校に着いたにも関わらず、既にクラスの半数以上は揃っていた。各々が持参して来た衣装を持ち寄り、コスプレ喫茶への意欲を表している。

私達が出店するコスプレ喫茶は、衣装の数の関係もあり実際にそれを着るのはウェイターだけとなっている。調理係や食材の調達係は、上はクラスTシャツに下は制服という、一応統一はしているが特に凝った服装ではない。勿論私はコスプレをする気は無いので調理係に回ったのだ、が。



「え、やだちょっと、田代さん超可愛い!」

「うお!何だよそれ遊園地から持ってきたのか?」

「いーや、俺と仁王でドンキで買って来た。これぜってー田代に似合うと思って!」

「こんな物にお金をかけるなんて馬鹿か君達は」

「まぁまぁえぇじゃろ」



なんと、丸井君と仁王君が買って来たと言う衣装に無理矢理着替えさせられてしまった。その衣装というのは、黒猫の着ぐるみだ。ご丁寧に顔は見えるようになっているから、がっつり私だという事が晒される。こんな屈辱は無い。しかも妙に図体がでかいせいで重いし暑いし、何より動きずらい。こんなので調理なんて出来るはずが無い。



「ちゅーわけで、田代も俺達と同じウェイターじゃ!」

「は?ありえないだろう。私に接客が出来ると思うか」

「んーなんとかなるっしょ。さ、開店準備するぜーぃ!」

「ちょ…!」



私の反論を聞かないまま丸井君は勝手に話を進め、なんと土壇場で調理係からウェイターへ左遷されてしまった。クラスの人達もすっかり賛同しているし、もう逃げ道は無い。無理矢理にでも衣装を着るのを拒めばよかったと、凄まじい勢いで後悔の念が押し寄せる。



「田代ちゃん、似合ってるから大丈夫だよ!可愛い!」

「ちょっと動きにくそうだけど頑張ろうね!」

「…あぁ」



もういい、ここまで来ると自棄だ。だから私はメイドのコスプレをしている女の子達にそう相槌を打って、ウェイターの要領の再確認に没頭した。恨むぞ、丸井君、仁王君。

それからしばらくして、時間は過ぎ。



「いらっしゃいませー!!」



開店の時が来た。1番最初に来た2年生の女の子4人を全員で迎え、それからは人が波のように入って来る。男女比は女子が圧倒的で、言わずもがなあの悪ガキコンビ目当てだろう。



「田代さん、田代さん」

「ん?」

「それ、よく似合ってるよ。可愛い」



だが、いくら目当ての人物が集中してようと、ウェイターの忙しさまでその人物に集中する事は無い。全員が同じ分だけ動き回る。それは理不尽にウェイターにさせられた私も例外ではなく、着ぐるみのせいで動きずらい体を駆使しながら、一生懸命注文を取ったり運んだりをしていた。すると、土田君にすれ違いざまそんな事を言われた。ちなみに土田君とは、つい一昨日くらいに私に告白をしてきた人だ。あの時はわからなかったが、後に座席名簿を見て把握した。一応、さすがに名前くらいは知っておくべきだと思ったから。

私は土田君のその褒め言葉に返す言葉がなく、とりあえず頭を軽く下げた。すると土田君はそれだけで満足してくれたのか、満面の笑みでウェイターの仕事に専念し始めた。…と、同時に、バンッ!と机を乱暴に叩く音が耳に入る。



「そこの猫さん、注文お願いしたいんだけどな?」

「よく似合っているぞ」



あぁ、面倒臭い2人が最初に来てしまった。
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