直射日光は避けて下さい

最短試合時間新記録。この前優勝した県大会でそんな記録を皆は更新したらしいのだが、正直その試合自体は特になんの盛り上がりもなかった。明らかに手を抜いているのがわかったし、皆も皆であそこで勝つのは最早当たり前なのか、喜んでいる素振りすらなかったからだ。こう言っては相手校に失礼極まりないのだが、見応えが無かった、と言うべきか。

まぁそれはさておき、今私、いや、正確に言えば私達は、結構な非常事態に陥っている。



「「…何処だ此処」」



ブオーン、とバスが去っていく音が背後で聞こえ、ちらりと目線を前にやれば、そこには大きな学校がひとつ。昨日自転車がパンクしたおかげで、今日からしばらくはバス通学を余儀なくされていた私だが、まさか乗り過ごしてこんな所まで来るとは思ってもいなかった。



「───…ちょ、あっ!」

「…どうだった」

「ちぇー、切られたッス」

「そうか」



…そしてそんな情けないミスを犯したのは私だけではなく、切原君も一緒だった。今顧問に携帯で連絡を入れたのだが、どうやら切られたらしい。これじゃあ今日の練習試合は間に合いそうにないな。…真田君と柳君になんて言われることか。



「あー!晴香先輩、此処青学ッスよ!」

「青学?」

「都大会で優勝したとこッス!折角来たんだしちょっくら様子見ていきません?」

「…………」

「あの、無言で圧力かけんのやめてほしいんスけど」



圧力をかけたつもりはないが、全力で面倒臭いとう表情は確かにした。だって事実だし。でも結局切原君はそんな私のサインを当たり前のようにスルーし、堂々と敷地内に足を踏み入れ始めた。



「青学っつったら、まともに俺達と張り合えんの手塚さんくらいしかいないだろうッスけどねー」

「へえ」

「…あの、仮にもマネージャーなんだしもっと興味持ちません?」

「自分の学校だけで精一杯だ」

「うわ、それ俺達には興味あるってことッスか?ちょ、先輩照れる!可愛い!」



1人で勝手にキャッキャと騒いでいる切原君は放置して、私は視界に入った大木の下にある階段に近付き、そのままそこに腰を降ろした。それを見た切原君はえ゛、と顔をひきつらせている。



「行ってらっしゃい」

「そりゃ無いッスよ先輩!何ちゃっかり手振ってんスかいつもは振ってくんないくせに!可愛いんスけど!」

「怒ってるのか褒めてるのかよくわからないぞ。何はともあれ私は此処で寝てるから、偵察なら1人で行ってくるといい」

「そんなぁー…」



見るからにうなだれている切原君の頭に手をポン、と乗せながら更に私は言葉を続ける。



「私が見た所でわかることは何も無いし無駄だろう。だから行ってらっしゃい」

「うー…わかったッス。此処から動かないで下さいね!絶対ッスよ!」

「ん」

「あ、あとこれ俺のジャージ!寝顔なんか無防備に晒したら絶対ダメッス、寝るならこれかぶって寝て下さい!」

「ん」



いつもは私が動かなければ切原君も何かとやらないことが多いが、今回はテニスが関連しているだけあってか1人でもちゃんと行動に出た。常にこんな感じだったら苦労しないのだが。

そして私はさっき言った通り階段に横になり、瞳を閉じた。大木が陽射しを遮断してくれているおかげで、風が一層気持ち良く感じる。そんな状況の中意識を手放すことなど容易いことで、私はジャージをかぶってからすぐに眠りについた。
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