人を動かすのは熱意か殺意

全部が気に食わなかった。普通の女子じゃ根を上げるようなマネージャーの仕事量を淡々とこなしている姿も、可愛げがあるわけじゃないのに先輩達皆に好かれている姿も、何があってもへこたれない強さも。



「何かあるなら直接言ってもらいたいんだが」

「…は、な、何なの」



そして、近くで見るとその目はやっぱり強かった。



***



「聞こえないのか?直接言えと言っているんだ」

「ちょ、やめろって!もう授業始まるし、な?」

「次昼休みじゃからその時間でも遅くはなか」

「…じゃあ次の時間にまた来る。絶対に此処にいてくれ」



自分の上靴を片手に倉持に迫る田代は、もうなんつーか怖いという言葉以外に表しようがなかった。例え履いているものがちょいサイズが合ってないスリッパでも。…い、いや、こんな冗談言ってる余裕ねぇんだよ。



「田代ー、倉持超ビビッてたぜぃ?」

「こんな事をさせたのは誰だ、全部自己責任だろう」

「…俺、田代だけは敵に回したくないなり」

「へぇ」



音楽室に着くともう俺ら以外のクラスの奴らは全員席に座ってて、ほんで眉間に皺を寄せまくってる田代の顔を見るなり皆して目をぎょっとさせた。そりゃそうだよなぁ、マジでこえーもん。



「それでは授業を始めまーす!」



澱んだ空気の中、先生のソプラノ声が響く。いつも以上にアウェイなその声は、俺と仁王の口元を引き攣らせるには充分だった。



***



「ブ、ブン、もうチャイム鳴るぜよ」

「あぁ、鳴ったと同時に田代を止めに行かなきゃな…ってあいつもう行っちまったぞ!」

「えっ!?あ、チャイム鳴った!!」

「待て田代ー!!」

「田代さーん、丸井くーん、仁王くーん、挨拶まだしてないんだけどなー?」



虚しげな先生の声を背中で受け止め、申し訳ないとは思いつつも俺とブンは田代の後を追いかける為に全力で音楽室から飛び出した。すまん先生、田代の暴走は俺達が止めんと、多分あの1年生死ぬ!し、死ぬはちょっと盛ったけど!

でも、冗談抜きであんなキレとる田代は初めて見た。普段はそげん表情を変えんからわからんけど、きっと今の田代は周りが見えてない。きっとっちゅーか、絶対。



「田代ー!ってもういねぇー!?あ!おい柳、手伝え!」

「何事だ騒々しい」

「倉持は何組じゃ!?」



そうして俺達が急いで来た関わらず、もう廊下に田代の姿は無かった。多分倉持のクラスに直接押し掛けたんじゃと思う。その事に俺達が焦ってると、ちょうど参謀が階段から降りてきたから、即座に駆け寄って何か情報が無いかを聞き出す。



「倉持はC組だ。何かあったのか」

「田代がやべぇ、ブチギレてる」

「…それは緊急事態だな。倉持のクラスは田代にも伝えてある、すぐに行くぞ」



ポーカーフェイスの参謀がちと表情を変えたのを見て、俺はいよいよ事の重大さを実感した。あぁ田代、殺人だけは勘弁ぜよ!
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