一歩進んでは考えて

けたたましく鳴り響く目覚ましに重たい目をこじ開けて、脳を活性化させる為にまずカーテンを開け、日の光を浴びる。前まではこの時間に起きることなど決して有り得なかっただけに、まだまだ慣れそうにない。



「ふぁ…」

「おはよう晴香!ほら、早く支度しなきゃ遅れるわよ!」



そして、こんなに早い時間にも関わらずお母さんは毎日朝ご飯とお弁当をしっかり作ってくれる。なんでも、私が部活を始めたことが相当嬉しいらしい。マネージャーになったことをお母さんとお父さんに伝えた日、晴香がやりたいことを見つけた!、と2人は手を取り合って喜んでいた。言うまでもなく大袈裟な上に親馬鹿だ。



「どう?部活は楽しい?」

「まぁまぁ」

「よかった!」



正直言ってしまえば、部活自体は楽しいものではない。マネージャーなんて雑用が主だし、それにあの人達の無駄絡みもプラスされるとなると結構な労力を使う。反面、確かにやりがいは感じているわけだから弱音は吐かないが。



「おかわり」

「やっぱり朝カレーはいいのね!」

「元気が出る」



おかわり分も平らげたところで朝食を終わらせ、次は身支度を始める。歯を磨いて、顔を洗って、髪を適当に縛って、鞄を持って、ジャージのまま出発だ。



「行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

「頑張れよー!」



全ての用意が終わって家を出る頃にはお父さんも起きてて、2人の異常に元気な声に送り出される。最近ではこれがすっかり日常となっていて、やかましいというか元気付けられるというか、まぁそんな感じだ。

カゴに鞄を突っ込んでから自転車にまたがり、坂道をブレーキ無しで下る。この時間はまだ車も人も少ないから運転しやすい。



「(…ん?)」



そうしてしばらく漕ぎ続けていると立海にはすぐに着いた。しかし、校門前に何やら人影が見える。こんな早くから朝練をしてるのはテニス部だけだからテニス部員の可能性が高いが、一体誰だ?そんな疑問を抱えながらゆっくりその人影に近付く。後数メートルという距離まで迫ったところで、しゃがみこんでいる人影は私の方に振り向いた。



「あ、田代」

「…何をやってるんだ」

「最近住み着いてるなり、可愛い」

「野良猫か」



そこにいたのは、だらしなく頬を緩めている仁王君だった。仁王君はしゃがみこんでいるどころかもはやあぐらをかいていて、更にそのすぐ傍には野良にしては綺麗な毛並みをした猫が、彼から与えられたのであろう缶詰を食べていた。野良猫に餌を与える行為はどうなのかと聞かれれば正直微妙なところだが、私は便乗して仁王君の隣に腰を降ろした。



「可愛いなりー」

「あぁ、可愛い」



缶詰を食べ終わり、に゛ゃーと少し濁った声を出しながらお腹を向けて甘えてくる野良猫。…しかし可愛いな。



「あ、田代、朝練始まる」

「あぁ」

「行かんの?」

「…行く」



離れるのは中々名残惜しかったが、私達は最後にその肉付きの良いお腹を一撫でして、テニスコートに向かった。



「猫の名前なんにする?」

「お腹がプヨプヨしてた」

「ん、じゃあプーちゃん」

「うん」



また今度な、プーちゃん。心の中でまた会う事を約束して、背後で聞こえた鳴き声に少しだけ笑った。
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