「全く、あんなに泣き喚きよって!たるんどるわ!」

「そう言ってくれるな、弦一郎」



口ではそう言っているものの、実際は赤也のことが心配で溜まらないのは目に見えている。証拠にさっきから頻繁に後ろを振り向きすぎだ、この親馬鹿が。

…と、心の中で弦一郎を馬鹿にしてみたが、その前に俺にはもっと謝らなければいけないことがある。だから俺はそれまでも寄せていた眉間の皺を更に寄せ、弦一郎に話を切り出した。



「む、どうしたのだ」

「俺は、精市の体調の悪さに気付いていた」



そう、俺は、病態に気付いていながら精市にも誰にも何も言うことが出来なかった。この俺が、何かを恐れて躊躇したのだ。こんな情けない話を弦一郎に言えば怒られるに違いない。だが、今はその怒りが欲しい。このどうしようもなく貧弱な精神を叩き直して欲しい。そんな謝罪やら懇願やらが入り混じった感情で弦一郎の言葉を待っていると、奴からは意外な言葉が振りかかってきた。



「お前は、俺に喝を入れて欲しいのか」

「…」

「だが、俺がお前にそれをする権利はない」

「何故だ?お前のことなら、」

「俺がお前でもきっと、誰に何も言えなかったからだ。俺だけではない、全員がそうだ」



弦一郎が?その信じがたい返答に些か迷いが生じ、今度は眉が情けなく下がるのを痛感する。



「自ら大事なものを失いにいこうとする奴など、この世の何処にもおらんわ」

「確かにそうだが」

「いずれにせよ、まだ幸村がテニスが出来なくなるほどの病気だと決定した訳ではない。今俺達が落ち込むことこそお門違いだろう」

「…そうだな。今は願って待つのが先だな。しかし、どうにも歯痒い」

「…あぁ、歯痒いな」



普段弦一郎とは、こういった神妙な雰囲気で会話をすることが無いに等しい分、俺はどうもこの空間に馴染めそうになかった。だが、これもまたきっと必要なことなのかもしれない。



「田代と幸村は上手くやっているのだろうか」

「田代の性格上、何が起きても素知らぬ顔をしていそうだな。内心何を思っているかはわかりかねないが」

「全く、難しい奴だ!」



とりあえずはこの1週間は田代を頼るとしよう。俺達の代わり、というわけではなく、田代だからこそ出来ることをしてほしい。勿論こんなこと本人には言わないが、田代はあぁ見えて察しがいいから極自然にそれをやりのけてくれるだろう。



「俺達は立ち止まる訳にはいかんのだ。我が立海の掟、なんとしてでも貫き通す」

「あぁ、当たり前だ」



無理矢理でもいいから、部内での立場が上である俺達の不安を他の奴らには悟らせたくない。いや、悟らせてたまるか。あらゆることに勝って勝って勝ちまくって、不安など最初からなかったことにすればいいのだ。

夕焼けが差し込む歩道橋で、俺達はそんな誓いを立てた。
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