「くそっ、くそ…っ!!」 「赤也ー、もう帰ろうぜぃ」 「あぁ、そんな格好と汗じゃ風邪引くぞ」 部活が終わってから制服に着替えて部室を出ると、かなり乱暴にテニスボールが打ちつけられる音が俺とジャッカルの耳に入った。で、音を辿って校舎裏に来てみたら、赤也が無我夢中で壁打ちしてて。だからこいつ部室にいなかったのか、とさっきまで不思議に思っていたことが一瞬で解決した。全く世話の焼ける後輩だぜぃ。 「はぁ…っ」 「お前どうしたんだよ?目も真っ赤だぜぃ」 「っ、だって!!」 「わかるぜ、お前の言いたいことは。全員同じだからな」 シラを切る俺と違って、ジャッカルは赤也の肩に手を乗せながら励ますようにそう言った。そしてその言葉が効いたのか、赤也はみるみるうちに目に涙を溜めて、ラケットと一緒に地面に崩れ落ちた。 「ブチョ、が、だって…!」 「まだ検査入院だろぃ?テニスが出来なくなったって決まった訳じゃねぇ」 「でも!!」 「しっかりしろ!!」 いつまでもうだうだ言い続ける赤也に、俺は膨らましてたガムを割って声を張り上げた。ジャッカルは目を俯かせてる。 「俺らがそんなんでどうするんだよ。幸村君のことを信じて待ってあげられるのは俺らだけだ」 「っ、」 「俺らは、幸村君の仲間だ。俺らがちゃんとしてなくて幸村君が安心できるはずないだろぃ」 確かに、赤也だけじゃなくて、俺達にとってもまるでヒーローのような幸村君が急にいなくなるかもしれない、ということは、可能性として考えるだけでもめっちゃ嫌だ。不安とかそういうのよりも、ただただ嫌だという気持ちばっかが先立つ。でも、そんなん誰だって一緒なんだ。第一まだ決まったことじゃないし、わかんねぇことを勝手に予想して泣いてたら、それこそ幸村君に顔向けができねぇ。 だから俺があえて強めの口調で叱って赤也の頭に手を乗せると、赤也はそのまま俺とジャッカルに引っ付いてきてわんわん泣いた。途中で声を聞きつけた柳と真田が来たけど、大丈夫、っつー意味を込めてピースしたら、頷いて帰ってった。 「俺、まだ、ブチョ倒してない」 「んー、幸村君倒すとか実際無謀だけどな」 「絶対倒すッス!!」 「頑張れよ、いずれ立海を担うのはお前なんだからな」 俺は優しい励ましの言葉とか、そういうのは苦手だから言えない。でもジャッカルはそんな俺を理解して上手くフォローしてくれる。赤也、お前先輩に恵まれてんぞ! 「だから、な?一緒に待とうな」 「…はい」 「おら、汗冷えんぞ。あ、てかお前らこれからマック付き合えよ」 「…丸井先輩のこと一瞬でも尊敬した俺が馬鹿でした」 「はぁ!?ふざけんなお前!てかさっさと着替えろぃ!」 「痛っ!痛いッスよ!助けてジャッカル先輩!」 「はいはい、早く行くぞ」 最後に1回赤也の頭を叩くとこいつは不満げにギャーギャーと騒ぎ始めたけど、そんな中ジャッカルはちゃんとこいつの両手を引っ張って立ち上がらせてた。ジャッカル、それは甘すぎんだろぃ。 それからもジャッカルに引っ付いて離れようとしない赤也を置いて、俺は先に部室にさっさと向かう。 「…頼むぜぃ、幸村君」 入院期間中の幸村君については田代に任せた。これは田代にもメールで言ってある。返事は来なかったけど、なんだかんだあいつなら大丈夫だ。大丈夫、皆大丈夫だ! とかいうちょいと難しいことを考えすぎたのか、正直な俺の腹はそこでぐーぐーと音を立て始めた。さーて、んじゃ何食おっかなー。 |