「大丈夫なんじゃろか、あの2人」

「そうですね…幸村君がこうなってしまうなんて、思ってもいませんでした」



ここ数日は誰もが気を紛らわそうと必死になりすぎて、部活終了後には通常の倍以上の疲れがどっと押し寄せて来るようになりました。いつもは全員で一緒に帰っていたのに、それもなんとなくバラバラになってしまったし、今日の仁王君に至っては着替えが終わるなり、逃げ出すようにさっさと部室から出て行ってしまった程です。私はそんな彼を心配に思い、帰り道に通りかかった並木道のベンチで彼と共に気を落ち着かせているのですが、勿論それも気休めでしかありません。



「ほんと、幸村があんなんなっとるの、全然気付かんかった」

「無理もありません、彼は相当な強がりです。私達の前では全くそんな素振りを見せていませんでしたからね。あの柳君でさえ、なんとなくとしか気付いていなかったのですから」

「まぁ、そうじゃけど」



そう言うと仁王君は少し不貞腐れたような顔で、手に持っているホットココアに口をつけました。私の持ってるコーヒーと違って甘い匂いがしますが、その匂いはなんだかこの場にはそぐわなく、変な感じがします。



「どうなってしまうんじゃろ」

「とりあえずこの検査入院の結果次第ですね。幸村君はすぐに復帰する、と笑顔で言っていましたが…」

「…言い切れるはずがなか。田代も同じ時に戻ってくるんじゃろ?」

「えぇ、予定では」



陽が落ちるのが早くなった夕焼けを見ながら、私達は2人同時に深い溜息を吐きました。更にそれと同時に仁王君は椅子にだらしなく座り、かなり脱力してしまっているようです。



「俺、ずーっとあの環境が変わらんもんじゃと思っとった」

「まだ結果は来ていません、それを諦めるには早いでしょう」

「…怖いのう」

「…そうですね」



仁王君の勧誘でほぼ強制的にテニス部に入ってからは、慣れないことに頭を悩まされる日々が続いていました。しかし、今までの何よりもやりがいを感じたのも事実です。テニスが、仲間というものがこんなにも心を奮わせるものだなんて、以前の私からは想像もつきませんでした。

田代さんも最初の出会いは散々でしたが、彼女のおかげで私達は更に日々を楽しく送れていると言っても過言ではないでしょう。勿論、彼女にそんな気は微塵も無いのでしょうが。



「こんなに何も出来んなんて、もどかしいなり」

「貴方でもそんなこと思うんですね」

「詐欺師なんてコート上だけじゃ」

「そんなこと知ってますよ、普段田代さんにあんな姿を見せておいて今更何を言ってるんですか」

「…プリッ」



それからしばらくして陽は落ち、それに伴い帰路に着くことにした私達は静かにベンチから立ち上がり、歩き始めました。



「じゃあな、柳生」

「えぇ、また明日」



歩いている間は特に会話を交わすことも無く、分岐点に着くと仁王君は未だ飲み終わっていないココアを掲げて、足早に去っていきました。



「…そんなに見られたくなかったんでしょうかね」



そして、その後ろ姿の背中が小刻みに震えているのを見て、私は苦笑せざるを得ませんでした。どうせなら切原君のように大声を上げてしまえば楽だろうに、と思ったのは余計なお世話だと思うので秘密です。
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