「ほら先輩方!早く行くっすよ!」

「はよ会いたい気持ちはわかるけぇ、でも電車の時間は変わらんぜよ」

「そーそ、もっと頭使えバカ也!」

「うっわウッザ!」



心の何処かではわかってた。今だってまだ認めたくないから色々理由をつけて自分の中で否定してるものの、風邪、なんて言葉で片付けられないことくらい、わかってるんだ。自分の体のことは自分が1番よく知ってるし。だからこそ、病院に行ったりして確かめることが出来なかった。



「今日はなんのお見舞いを持って行きましょうかね」

「田代は甘党だからな、それによく食べる。たくさん買ってってやろうぜ」



こいつらに関しても、田代に関しても。やっと手に入れたこの居心地の良すぎる場所から自ら離れるなんて、そんなことは出来なかった。



「蓮二、田代の退院後のリハビリプランについてなのだが」

「だから弦一郎、何度も言うようにそれはお前の仕事では無い」



───情けない。ただ、この一言に尽きる。



「っ、く…!」

「…幸村?ゆ、幸村!?どうしたのだ!幸村!」

「え?ブ、チョ?」

「幸村っ!!くそっ…早く、早く救急車を呼ばんかぁああ!!」



これが、夢だったらいいのに。










「(そろそろか)」



月曜日。今日は部活がミーティングだけで都合が合うから、何日かぶりにあの人達が全員で見舞いに来るらしい。

壁時計に目を向ければそろそろ来そうな時間帯になっていたので、ロビーにある売店で何かを買って貰おうと試みた私は、ぴょんっとベッドを降り廊下に出た。形だけで言えばお迎え、ということになるのか。そこまで考えたところで心なしか自分が浮き足立ってることに気付き、その様に思わず苦笑する。なんだかんだあの人達といると退屈しないからな。



「大丈夫ですかー!聞こえますかー!」



廊下を曲がった所にあるエレベーターの前で立っていると、途端にそんな騒がしい声が耳に入った。ガラガラ!と担架で人を運ぶ音がする。入院してからもこの音は何回か聞いたが、こんなにも焦っているのは初めてだ。私はそれが若干気になったので、チラ、と廊下に目を向けた。

そして、その光景に愕然とした。



「幸村!!」

「嘘だ!!ブチョーー!!」



目には、必死の形相で担架の後ろを走る、いつもは馬鹿なことしかしてないあの人達の姿が映る。



「柳、君」

「…こんな予想、当たってほしくなかったんだがな」



動揺する彼らの一歩後ろで、柳君は目線を下げて立っていた。なんで。売店で真田君あたりにでもお菓子を買わせ、それを皆で食べて、いつも通り談笑するはずだったのに。

幸村君、なんで君は、担架に乗ってるんだ?

意味がわからない。



「意味がわからない、なんだ、何がどうなって」

「精市の体調が悪いのは前から薄々気付いていた。恐らくそれが風邪ではないことも。でも、そのことを俺も…そして精市も、認めたくなかった」



バタン、と音がする方に目を向ければ、それは手術室のドアが閉まった音で。ドアの前にはあの人達が力なく座り込んでいる。切原君の泣き叫ぶ声が、耳につく。



「私は、まだ聞いてない」

「あぁ」

「なんでもうすぐ退院なのにあんなに幸村君が不機嫌になっていたのか」

「あぁ」

「これが、理由なのか」



そう聞けば柳君は私から目を逸らし、放心状態の彼らにその目を向けた。



「本当に、自己中心的な奴だ」



気付いてあげられなかったことが悲しいとか、申し訳ないとか、そんな自虐的なことは微塵も思わない。ただ、幸村君、



「…自己中にも、程がある」



少し、頭がついていかないようだ。
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