「そこ私語うるさい、話してる暇あるならさっさと練習しな」

「は、はいっ!」

「すみませんでした!」



放課後。いつも通り懸命に練習に励んでいるテニス部だが、どうやら見る限り、ここ最近は幸村の短気さに磨きがかかってしまっているようだ。彼に叱られた部員は怯えたように肩を縮こまらせ、各々のやるべき事に取り組み始めた。



「精市、今あいつらは部活に関連していることを話し合っていただけだぞ。少し気が短くなってるんじゃないのか」

「それでも私語は私語でしょ?下手なんだからさっさと練習して貰わなきゃ困るんだよね」

「精市」

「…わかったよ」



あまりに酷い物言いに柳が眉間に皺を寄せると、幸村は観念したように溜息を吐き、首を横に振った。



「自分でもわかってるよ、おかしいことくらい」

「典型的な田代不足だな。月曜全員で行く前に個人的に行ったらどうだ?」

「なーんかそれも癪だなー」



頬を膨らませ子供じみた表情でそう言う幸村に、柳は思わず苦笑する。



「何も田代がいなくてストレスを抱えているのはお前だけじゃないだろう。丸井、仁王、赤也を見てみろ」

「あそこまで落ちぶれはしないよ」



2人が視線の先を会話に出てきた3人の方へ移すと、かなり気が立っているのが手に取るようにわかった。丸井はガムを膨らましては割り、仁王は柳生を無差別にラケットでつつき、切原は異常なまでに赤目になり。最終的に苦労の矛先は全てジャッカルに向けられる所あたりが、理不尽極まりない。



「ま、気分になったら行こうかな」

「あぁ」



そこで2人の会話は終了し、幸村はタオル取ってくる、と柳に告げ、そのまま部室に向かって歩き出した。そんな幸村の後ろ姿を、柳はどこか不安げな表情で見ている。



「…行きたくても行けない、という訳ではないよな、精市」



その問いかけに答える者は、誰1人としていなかった。










「っ、ゴホゴホッ!!ゴホッ…はぁー」



部室に入るなり、幸村はすぐにドアを背に座り込んで咳込み始めた。その表情は苦痛に満ちており、やっと咳が止んだと思っても上の空状態だ。



「…こんなとこ、あいつの前で見せれないって」



そう言い眉を下げて軽く笑った幸村は、目の前にあるこれまでの立派な功績であるトロフィーの数々を見て、拳を壁に殴りつけた。
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