「ひーまだよなぁ」

「あぁ、暇じゃ」

「暇っすねえ」

「切原ーここ2年の教室だぞー」



2年B組、3時間目、古典。授業中にも関わらず切原は本来晴香が座っているはずの席に堂々と座り、仁王と丸井も教科書を出さずにだらーっと机に体を伸ばしている。授業放棄もいいとこなその光景に教科担当は溜息を吐き、男子は苦笑し、女子は目をハートにし。しかしそんな周りの状況など眼中にない3人は、ただただ暇そうに過ごしている。



「先輩達、毎日晴香先輩とこんな近くで話せてるんすねー。羨ましい」

「まぁあいつ大抵寝てっけどな」

「田代は寝起きが最強に悪いから無闇に話しかけることもできん、実質話しとる時間は少ないぜよ。顔見れるだけでえぇんじゃけど」

「ずっるー!」



2人の自慢を聞くなり、晴香の机を抱きしめるようにしてジタバタしだした切原を、仁王と丸井はいつものようにからかったりせず、苦笑して眺めた。



「最初は良いイジり相手程度にしか思ってなかったんだけどなぁ」

「俺は最初から先輩ラブでしたよ!」

「赤也、いつだかもこうやって田代の席に座って田代のこと待っとったの」

「あー!それかなり最初の頃だよな?あん時の教室に入ってきた時の田代の顔!マジ最高だったぜぃ!」

「なんか超驚いてましたよねー」



なんでだろう?、と首を傾げる切原に、2人は当たり前だろ、と内心思ったがそれは口には出さず、再び話を戻した。



「あとブン、田代とジャンケンでどっちが相手の分のノートをとるかーとかやっとったな」

「そうそう、俺達どっちも面倒くさがり屋だから。でもあいつ自分が負けたらその授業寝だすんだよぃ!俺は負けたら潔くあいつの分のノートもとってやんのに!」

「ははっ、晴香先輩らしー」



さっきまでのだらけた空気が完全に消え去った3人は、それからも晴香に纏わる話で延々と盛り上がった。あの時の晴香はあぁだっただとか、寝顔は可愛いだとか、意外と運動神経が良いだとか。そして気付けば授業終了のチャイムが鳴り、3人は時間の流れの早さに驚いたように声を上げた。



「えっ、もう終わりっすか?さっき始まったばっかじゃなかったっけ?」

「だよな、俺もそんな感じする。さっきお前教室に入ってきたばっかな気するもん」

「それほど話に夢中だったんじゃろ。田代の話にな」



なんとなく自嘲気味に言い放った仁王の言葉により、それまでの勢いはどこへ消えたのか、一瞬にして3人の間には沈黙が走った。



「…ばっかみてぇだな、俺達」



しかし、それも束の間。丸井のその言葉で3人は一斉に噴きだし、満面の笑みを浮かべた。



「俺達大好きっすねぇ、晴香先輩のこと!」

「ほーんと、早く戻ってこいっつーの」

「次全員で行くのは来週の月曜じゃな。何持ってってやろうかのう」



その頃晴香は人知れずくしゃみをしたとか、してないとか。
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