喉笛に突き刺さったナイフ

「中々充実した日々を送っているようだな」

「その果物ナイフで刺そうか」

「冗談だ」



あらゆる果物の皮を丁寧かつ素早く剥いてくれている柳君は、何食わぬ顔でそんなふざけた事を言い出した。

―――この2週間は大変だった。テニス部のメンバーが1人1人ローテーションで来たり、全員で来たり、まぁそこまでは良しとしよう。しかし、その見舞いの内容が、真田君の言葉を借りると…かなりたるんどるのだ。切原君は意外にも普通だった。ただあまりにもマシンガントークなのと時折かましてくるタックルという名の抱擁が体に響いたくらいで、まだ許容範囲内だった。

が、無茶苦茶なのは2年のメンバーだ。

柳生君は来るなりまず整理整頓がなってない、とがみがみ説教をしてきた。私の状態を知ってるくせに言ったものだから、さすがに手元にあった雑誌を投げつけた。

真田君も同じような感じだ。退院後のリハビリプランをなぜか真田君が作り、しかもその内容は地獄そのもので、さすがに手近にあった椅子を投げつけた。

丸井君はお菓子を大量に買ってくるのは良かったが、私の片手が不自由なのを良いことにそのほとんどを1人で食べ尽くしていた。しかし、海原祭に出品し優勝したという「RIKKAIスペシャル」というケーキは確かに美味しかったから、特別良しとしよう。

仁王君は…別に変わらなかったな。話したい時に話し、眠かったのか時には病室でうたた寝をしていったこともあった。それでもベッドに潜り込もうとしてきたときは容赦なく床に落としたし、いつもよりも甘えてきて面倒臭かったが。

桑原君はパーフェクトだ。あれはお手本といえるだろう。常に楽しい話題を提供し、かつ私の体調も気遣い、私の食べる量に合った見舞いの品も買ってきてくれた。最高桑原君。

幸村君にはとにかく嫌味をかなり言われた。お前がいなきゃつまんない、何で怪我なんかしてんの、だの、なんだの。小姑のようにしつこく言われて何度頭が痛くなった事か。

そして、今日、柳君。



「あと1週間だな」

「あぁ、やっとだ」

「もう痛みは引いてきたか?」

「ギブスをつけているからなんとも言えないが、頭はもう大丈夫だ」

「なら良かった」



彼はいつもと変わらず、冷静に私と会話を交わしている。あ、でもいつものようにノートは出していないな。この人なりの気遣いなんだろうか。そういう気遣いが出来るならさっきのようなふざけた事は言わないでほしい、と心の中で嫌味を言う。



「どいつも大変だ、特に精市なんて周りにかなり八つ当たりしている」

「私にも面と向かって言ってくるがな。何がそんなに嫌なんだか、どうせ後1週間で退院なのに」

「それは精市本人に聞いてみるといいだろう」

「嫌だ、面倒臭い」



林檎をシャリシャリかじりながらそう言うと柳君は、聞けるうちに聞いておけ、と言った。え、なんだその意味深な言葉は。



「どういう意味だ柳君、幸村君は何処かへ行ってしまうのか?」

「…いや、何でもない」

「意味がわからない。ちゃんと説明してくれ」

「ただの俺の憶測にすぎない。容易く口に出していいものではなかった、変なことを言ってすまない。忘れてくれ」



まだ尋問を続けようとした私に対して、柳君はそれを拒否するように花瓶を持って病室から出ていった。意味がわからない、でも、聞くこともできない。…なんだって言うんだ。

結局柳君は戻ってきてからもその話題について一切触れようとしないので、タイミングを完全に逃した私は最後まで聞けないまま彼を帰してしまった。

嫌な、予感が、する。
 1/4 

bkm main home

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -