「───…ぱいっ、晴香先輩っ!!」

「……ん…」

「先輩…っ!」



目を開けるとまず、視界は切原君の泣き顔で埋め尽くされた。加えて、鼻につく医薬品の匂い、固定されてる腕、そして頭にも違和感を抱いた。



「…病院?」

「目を覚ましてくれて本当に安心しましたよ」

「田代…っ」

「ごめんな田代、俺が教材室に行けなんて言わなければ…!」

「うぅ…晴香先輩ぃいぃ!!」

「わかった、わかったから泣くな抱きつくな痛い痛い痛い」



視界を広げてみれば仁王君と丸井君も顔をぐちゃぐちゃにして泣いていて、2人はさっきから引っ付いてきている切原君に便乗して思いっきり覆い被さってきた。痛い無理。そんな私の状況を見かねて、柳君が3人の首根っこを掴み引っ剥がしてくれた。助かった。



「…なんか、すまない」

「田代が助けた女子、罪悪感でかなり泣いてたぜ。あんま無茶すんなよ」



桑原君の苦笑がやけに心に沁みる。そういえば、あの女の子は?その想いを込めて辺りを見渡すと柳君と目が合い、彼は私の表情で悟ってくれたのか、軽く溜息を吐いた後に言葉を続けた。



「女子生徒は無傷だ。日を改めて見舞いに来ると言っていた」

「今回は、廊下でサッカーボールで遊んでいた1年の男子が全ての根源だそうだ。ゴール代わりに教材室を使ったら運悪くお前達がいたということだ。全くたるんどるわ!」

「紳士たるものあるまじき行為です。先生方から厳重注意をしていただかないと示しが付かないですね」

「当たり前だろ。むしろ俺が直々に注意してやるよ」

「…幸村君?」



そこで、今まで一言も発さずに、ただ腕を組んでドアに背中を預けて立っていた幸村君が、ようやく口を開いた。しかしその声色は明らかに不機嫌なもので、一瞬にして場が凍り付くのを感じる。何があったと言うんだ。



「幸村君、どうしたんだ」

「…どうしたんだ、じゃないだろ?頭から血流して腕ヒビ入れてさ」

「…そんなに重傷だったのか」

「ついでに3週間は入院して安静にしなきゃいけないんだよ」

「それは無い」



幸村君の口から淡々と紡がれる事実に、私は表面上は平然を装っているものの、内心は驚きで満ち溢れていた。3週間入院?冗談じゃない、明日から海原祭なんだぞ(…あれ、面倒だと思ってたはずなのに)(これが本音か)



「お前のその細い体で何しようとしてんの?」

「そんなことは関係ない。あんな小さい女の子があの高さから落ちたらそれこそこの程度じゃ済まなかっただろう」

「だからって自ら下敷きになる奴がいる?支えきれないってわかってただろ?」

「じゃあ、見捨てれば良かったのか?」



幸村君の感情がいつもより大分高まっている。わかってる、心配してくれてたってことも、私のことを考えて怒ってくれているということも。でも、



「…こんな感情を私に教えたのは誰だと思ってるんだ」

「、は?」

「人を見放し続けてきた私がなぜこんな行動に出たかわかるか」



幸村君だけではなく全員に向けてそう言うと、彼らは何もわからないといった風に一様に首を傾げてきた。その中で幸村君は、眉毛を下げ、なんとも情けない顔をしている。



「人と関わることに、暖かさを感じてしまったからだ」



無関心でいられたらどれだけ楽だっただろう。前みたいに、視界を狭めて、全てに興味無くいられたら、どれだけ楽だっただろう。

でも、この人達といるとそんなことは絶対にさせてくれない。無理矢理視界に入ってくるものだから、広げざるを得なくなった。次々に色んなことを紹介してくるものだから、ふとした時にそれを思い出してしまうようになった。勝手に私の日常の中に入り込んできたのはこの人達だ。だから、クラスの女子とも隔てなく話せるようになった。皆が皆、話してみるとこの人達とはまた違って、それが案外楽しくて、人の暖かさを体感した。



「田代、お前」

「全部知らずに済んだら、それこそあの子に話しかけすらしなかった。そのまま、放っておいた」



でも、それが出来なかった。



「私を勝手に変えたのは、君達だろう」
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