調子狂うんだ

例えば、この人達に出会っていなかったら。人の暖かさなんて一生知らなかったんだろう、と、思う。










「いよいよじゃのう、海原祭」

「そうだな」

「マッジで楽しみ!打ち上げもやろうぜぃ!」



海原祭前日。私達は皆、最後の追い込みといった感じで教室にて準備の仕上げを進めている。丸井君に至っては明日が余程楽しみなのか、さっきから手ではなく口ばかりが動いているのが目立つくらいだ。普段からおしゃべりではあるが、流石にちょっとうるさい。



「丸井君、早くやらなきゃ終わらないんじゃないのか」

「ん?あぁ、ここまでくれば大丈夫だって。そんな焦んなよ!」

「…都合の良い頭じゃのう」

「全くの同感だ」



さっきまであれやれ!これやれ!とクラスメイトに指示を出していたのはどこの誰だったか。言ったところで無駄だから何も言わないのだが。



「あ、でもワリ田代、もっかい教材室行って来てくんねぇ?」

「何回私を教材室に行かせれば気が済むんだ君は」

「ワリーって!あとで新発売のお菓子分けてやっから!」

「ノッた」



面倒臭い提案も、食べ物が貰えるというのなら話は別だ。私は2人の間に座っていた位置から移動し、ドアに向かって歩き出した。後ろで仁王君の食い意地張りすぎじゃろ、って声が聞こえたが、勿論スルー。



「(…先客か)」



何のお菓子をくれるんだろう、と密かに楽しみにしながらそんな事を考えていると、教材室にはすぐに辿り着いた。

ドアを開けるとそこには先客がいて、上靴の色を見る限りどうやら1年生のようだ。見た感じ小さいであろうその女の子は、脚立に上って棚にある画用紙に手を付けていた。ドアを開けた音で女の子は私の方を見てきたので必然的に目が合ってしまい、そのまま逸らすのも気が引けたのから一応軽く会釈しておいた。女の子は柔らかい笑みでお辞儀してきた。



「(えーっと…ん?)」



そんなやり取りが終わったところで、私もまた目的の画用紙を探し始める。しかし、ふいに女の子の方に再度視線を向けると、その子は小さな体を精一杯伸ばしているという非常な不安定な体勢になっていた。後数センチではあるが、どれだけ頑張っても届きそうにない。…仕方ない。



「何が取りたいんだ?」

「えっ?」

「脚立の上でそんな体勢でいたら危ない。君よりは背が高いと思うから、私が取るよ」



いらない世話かもしれないと一度考えたが、どうやら女の子はちゃんと好意として受け取ってくれたようで、笑顔で一度頷くなりゆっくりとその高い脚立から降り始めた。

ゆっくり、一段ずつ、慎重に。



「オラッ!シューートッ!!」



その時、だった。



「きゃあぁあっ!?」

「っ、」



なんでこんなところにサッカーボールが、とか、なんでそれが運悪く脚立に当たってしまったんだ、とか。頭の中では色んな文句が飛び交ったが、体は正直なようで気付いたら私は女の子の真下に駆け寄っていた。

鈍い痛みと共に、視界が暗転した。
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