「仁王君、財布を「わー田代だー!どうしたの?俺に会いに来たの?本当に可愛いなぁもう!」 「仁王君、財布「田代ー菓子食うか?これ俺のおすすめ!」 「仁王君、財「おや田代さん、どうしたのですか?あ、どうぞそちらにお掛け下さい」 「仁王君、「なんじゃ田代、俺になんか用か?とりあえず飛び込んできんしゃい!」 「…桑原君、助けてくれ」 「心中察するぜ」 そうして辿り着いてしまった魔の巣窟、テニス部部室。そこには変わり映えしない無駄にテンションが高い彼らがいて、私は柳生君の気遣いをスルーして一目散に桑原君の隣を確保した。うるさいし厄介だし切原君は離れないしそれどころか幸村君と仁王君まで引っ付いてきたし、この財布投げ飛ばしてやろうかという暴挙まで起こしそうになる。 「田代、眉間の皺が凄いぞ」 「元はと言えば君が全ての元凶だろう」 「心外だな」 そう言って肩をすくめた柳君を本気で殴りたくなったが、後が面倒なので代わりに戦意喪失してる真田君を踏んでおいた。 「3人共離れてくれ。私は仁王君の財布を届けにきただけだ」 「え?俺の?」 「机の上に無防備に置かれていたぞ」 幸村君は未だ首に巻き付いてるが、とりあえず後の2人は離れたので財布を仁王君に差し出すと、仁王君は礼を言ってそれを受け取った。 「ありがと、田代」 「財布は忘れるな、無くしたら洒落にならない」 「田代ってば優しー!」 「うるさい早く離れろ」 「っつーか田代、この内装にはなんも触れないのかよぃ?」 ようやく幸村君も離れたところで、私は丸井君のその言葉で部室内を見渡した。今気付いたが、なんか…幻想的な内装だな。 「真田君の衣装からわかる通り、私達は演劇で人魚姫をやるのでそれにちなんだ内装にしたんですよ」 「へぇ」 「先輩興味なさそー」 だって本当に興味ないし、という言葉はさすがに心に秘めておこう。 全体的に暗めの色使いではあるが、煌びやかに光る装飾物は中々綺麗だ。センスがあるんだなぁ、と少しだけ感心する。 「それじゃお前ら、時間無いしさっさと次に取りかかりなよ」 『イエッサー!』 ギャーギャーと騒ぎ続けるかと思いや、幸村君のその言葉で皆は一斉に装飾の続きに取りかかった。もうすぐ最終下校時間になるがまだやるのだろうか?…まぁ指揮官が幸村君だし恐らくやるんだろうなぁ。 「せっかくだから田代、お前も、っ、ゴホゴホッ…」 「幸村君、大丈夫か?」 その時、幸村君が急に言葉の途中で咳をし出した。極力音を出さないように、両手で口を覆って。おかげで気付いているのは私だけだが、風邪だろうか?そう思い彼の顔を覗き込んでみたが、その表情はなんだか妙に不安げで、一瞬ちょっとびっくりする。 「…あぁ、大丈夫だよ」 「季節の変わり目だから、体調管理はしっかりした方が良い」 「そうだね。いいから田代、お前も一緒に帰るんだから待っててよ」 「うわ」 でも本当に一瞬の事だったし、特に気にしない事にした。というか、なんとなくこうなる事は予想してたが、実際なってみると本当に嫌だな。まぁ仕方ない、か。 皆がせっせと装飾を進める中、私と幸村君は真田君を椅子にしてその光景を雑談しながら見ていた。海原祭、結構面倒くさいなぁ。 |