「ジャッカル、それもうちょいそっち!」

「丸井君、桑原君はクラスが違うだろう。こき使うな」



教材室から戻ると、そこには結局仕事をしていない仁王君の代わりに、丸井君の指示に従いせっせと働いている桑原君の姿があった。理不尽すぎる光景を見て、つい眉間に皺を寄せながら丸井君に詰め寄る。



「いいんだ田代、俺のクラスは人手が足りすぎてるくらいだしな。暇疲れすんのは好きじゃねぇし」

「桑原君…いいのかそれで」

「あぁ」



しかし、それでも桑原君は白い歯を出してニカッ、と男前に笑うばかりだ。良い人なのは充分わかったが、そんな感じだから丸井君他諸々に上手く使われるんだぞ、と警告もしたい。本人がそれでいいと言うのならば私が口出しする権利はないのかもしれないが…確実に、人生の何割か損しているに違いない。



「田代、その画用紙で飾り作ってくれぃ!」

「飾り?」

「団子とか色々あんだろぃ。とりあえず教室に飾るやつ!他の女子とも協力して!」

「わかった」



そこで話は戻り、次はそんな指示を与えられたから気持ちを切り替え、素直にそれを行う。細かい作業はあまり好きではないのだが、何もしないわけにはいかないから仕方ない。私は未だシャボン玉を吹き続けてる仁王君はスルーして、女子の集団に近寄った。



「あ、田代ちゃん、どうしたの?」

「頼み事があるんだが」



とりあえず最初にそう切り出して、女子達に丸井君から言われた作業内容を伝えると、全員快く引き受けてくれた。良い人達だ。



「田代、田代」

「なんだ仁王君」

「俺もやる」



すると、さっきまで作業になんの興味も示してなかった仁王君が急に乗り気になってきた。床に座りながら画用紙に鉛筆を入れている私の横にしゃがみ込み、どこか照れくさそうにしながら近寄ってくる。



「1人になるのが嫌なら最初から素直に丸井君に従えばいいだろう」

「1人はいいけど、独りはやだ。田代がいなくなるとやだ」

「とんだわがままだな。早く座れ」



観念して私が床をポンポン、と叩きながら言うと、仁王君は嬉々とした様子で座り込んできた。いや、近い。

そこでふと視線を感じた方に目を向ければ、そこにはさっき仕事を頼んだ女子達がいて、なぜか彼女達は皆揃いも揃って物凄く口元を緩めている。私はその表情を見て、頭の上に疑問符を散らせながらなんだ?、と問いかけた。



「なんか…2人って姉弟みたいだね!」

「は?」

「凄く可愛いー!構ってもらいたい弟と、素っ気ないけどなんだかんだ優しい姉!」

「萌えー!」



で、声を合わせて返された言葉につい動きが止まる。…皆、普通にしてたら可愛いというのに勿体無い。



「田代が姉ちゃん…!」

「瞳を輝かせるな馬鹿」



海原祭、準備から忙しいなぁ。あ、仁王君ハサミで指切った。
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