もうわけわかんない

修学旅行の記憶がまだ新しい中、此処立海は年に一度の祭、通称“海原祭”の準備を着々と進めている。



「田代、そこの暖簾取ってくれぃ!」

「ん」



我が2年B組は団子屋を開く事になっており、特に丸井君なんかは準備からかなり張り切っている。テニス部はこれとはまた別に模擬店と演劇もやるらしいというのに、相当体力があるなぁ。



「田代ー、遊ぼー」

「仁王君、空気を読め」

「だって暇ー」



が、そんな風にせっせと働く(本人は本当に楽しんでいるようだが)丸井君とは真逆に、仁王君は椅子に座ってシャボン玉をしながらその光景をただ眺めているだけだ。教室内でシャボン玉なんてよくもまぁ傍迷惑な事を、と思ったが、クラスの女子達が仁王君の吹き出したシャボン玉を必死に捕まえようとしているのを見て、その思考は消え失せた。さすがに怖い。



「ふざけんな仁王、働けー!」

「えぇめんどー」

「働いたら田代がイイコイイコしてくれるってよ!」

「やる」

「ふざけるな」



誰がするか、というよりそんな即答するなんて良い歳してされたいのか仁王君。全く持って悪趣味だ。



「丸井君、私は何をすればいい」

「んーそうだなー…」

「何もする事が無いのなら別に無理に仕事を与えてくれなくてもいいのだが」

「お前、実は誰よりも働きたくないだろぃ」



あ、バレた。しかし私はそれを表に出す気は毛頭無い、こんなにクラスメイト達が頑張っているんだ。それを足蹴にするはずが無い。



「私だってやる時はちゃんとやる」

「そっか。んじゃなー…───」



そうして丸井君に言われて私が始めたのは、教材室から画用紙を取ってくる、という事だった。更に色のチョイスも私に任せるとの事(これは面倒だと思ったが、本人には言わないでおく)。

教室から出て、団子屋なら渋い色の方が良いか、などと割と真面目に考えながらトコトコ歩いていると、教材室にはすぐに辿り着いた。



「あ」

「おや、田代さん」



そして、辿り着いた先には柳生君がいた。彼も画用紙を取りに来たらしく、何枚かの色画用紙を手に取ってどの色にしようか見比べている。最初に比べれば彼の印象はまだ良くなったが、未だにどこか掴めないなと思うのも事実だ。ってまぁこれは今はどうでもいいや、兎に角私も画用紙を選ばなければ。



「仁王君は真面目に準備していますか?」

「していたら逆に驚きだろう」

「…ですよね」



相方の心配をするのは良いが、それは愚問というのだぞ柳生君。



「そういえば丸井君は料理大会に出るとか言ってた」

「あの方は料理に長けていますからね。お菓子部門に出場するそうですよ」

「そうなのか」



成る程、だから何ケーキにしよう、と頭を悩ませていたのか。とまぁこんな感じでお互い画用紙を選びながらも会話のテンポは良く、私達は他愛もない話を続けた。



「田代さん、是非我がテニス部の模擬店にも足を運んで下さいね」

「嫌だ、絶対混んでいるだろう」

「大丈夫ですよ、貴方が客なら幸村君が最優先するでしょう」

「それもそれで凄い嫌なんだが」



私がそう言うと柳生君は困ったように笑って、では演劇は見にいらして下さいね、と言ってきた。なんかごめん、柳生君。それからも雑談を続けつつ、教材室を出て各々の教室に着いた私達はそこで別れた。さぁ、仕事再開だ。
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