それからは大変だった。

何も出ていないのに真田君は亡霊だ!とか言って騒ぎ出すし、柳生君はパジャマで出てきた事を指摘してくるし、柳君は豆知識を何故か無駄に教えてくるし、幸村君は相変わらず構い続けてくるし。そんな中でも私は、さっき丸井君と仁王君がやけに涙ぐんでた事を思い出し、その理由を聞きだすべく2人に単刀直入に質問した。すると、



「だ、だって、なぁ?」

「…もしかしたら田代に、無理矢理こういう事付き合わせとるんじゃないか、って思て」

「…つくづく馬鹿だな君達は」

「やっぱそうなんかぁああ!?」

「田代!俺達はお前の事大好きだぞ!?」

「ウザいくらい伝わってくる」



そんな子供染みた事を言い出した。相手にするのも面倒くさい。

ちなみに私を受け止めてくれた桑原君は、そのまま私の隣にずっといてくれている。存在自体がマイナスイオンだと思う。



「…ん?」

「あ、おい田代?」

「すぐに行く、心配しなくていい」



だがそこで、森の奥の方に何やら光が差し込んでいるのを目にした。フラッと引きつけられるようにそこへ向かおうとする私を、桑原君が一度止める。しかしそれも振り切って、私は歩みを進めた。



「(なんだ?)」

「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?」



その場所に来た途端光は消え、一体何だったのかと不審に思い辺りを見渡す。するとふいに後ろから声をかけられ、振り向いてみれば1人の男の子が立ちすくんでいた。こんな時間に男の子が1人で何をしているんだ?誰もが当たり前に思う疑問を抱きつつ、続けて男の子に話しかける。



「どうした、ホテルから抜け出して来たのか?」

「ねぇお姉ちゃん、これあげる!」

「何だ?これは」

「僕の大好きな飴だよ」



手に落とされた1つの飴。何故いきなりくれたのかはわからないが、とりあえずありがとう、とお礼を言っておく。すると男の子はにっこりと笑い、言葉を続けた。



「ありがとう。僕の事怖がらなかったの、お姉ちゃんが初めてだ。ありがとう」

「あ、ちょっと」



私の手に1つの飴を残して、そのまま男の子は森の奥へと走って行った。奥の方で再び光が宿り、そしてそれは空に向かって消えて行った。



「何だったんだ…?」

「おい、田代?」

「あ」



一体男の子は何処へ行ってしまったんだろう、と思い空を見つめていると、後ろから桑原君に名前を呼ばれた。振り向けば桑原君だけではなく全員がそこにはいた。



「あれ田代、何持ってるの?」

「ん?これはさっきまで此処にいた男の子がくれたんだ」

「男の子、ですか?こんな時間に?」

「あぁ、それは私も不審に思ったんだがそのまま森の奥に走って行ってしまってな。聞きそびれた」

「…なぁ田代、それってよ」

「何だ?」



全員が乾いた笑いを漏らす。一体何だと言うんだ、訳が分からない。



「そ、そそそそのような事はっ」

「うるさいぞ弦一郎」



ま、いっか。何かあの男の子は嬉しそうに微笑んでいた事だし。



「で、肝試しとやらはどうしたんだ」

「…いや、もういいぜよ。田代の肝は試しようがないなり」

「何だそれは」



───結局、この夜中の密会は最終日の夜まで続いた。おかげで寝不足極まりない日々だったが、不思議と嫌な気持ちは無かった。



「(…人の気も知らずに…)」



しかし、帰りの飛行機の今、両肩に頭を乗せてきてる上に幸せそうに爆睡している丸井君と仁王君の事は、全力で殴り飛ばしたい。
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