「(…ようやく寝たか)」 ベッドに入ったのは0時頃だったが、同室3人の会話への華の咲かせようは尋常じゃなく、結局私はずっと眠れずにいた。ようやく3人が寝静まった今の時刻を確認してみれば、何と2時を回っている。 …そういえばさっき、幸村君から2時から肝試しをするという相変わらず意味不明なメールが届いていたな。しかし、女子部屋は男子部屋とは違い2階にある。よって窓から抜け出すのは不可能だ。イコール私には関係無い。この方程式が素早く浮かんだ私は既にパジャマを着込んでおり、行く気など更々無い。 そんな思考を頭に巡らせた途端、マナーモードの携帯がけたたましく鳴りだした。誰だこんな時間に、と不審に思いつつも、3人を起こさないようそっと携帯を開く。 「(…嫌な予感しかしないんだが)」 “窓から下を見て”。画面にはこんな内容のメールが表示されている。差出人は言わずともわかるだろうが幸村君だ。 私は面倒だとは思いつつも出るまで一生連絡を寄越して来そうだな、と思ったので重い体を起こして渋々窓を開けた。中に風が入らないようにベランダに出て、もう一度窓を閉める。 「…揃いも揃って何をやってるんだ」 「やだなぁ田代、約束忘れたの?2時から肝試しするって言ったじゃない」 「君達と違って私の部屋は見ての通り2階にある。玄関から出るのは先生方の見張りがあって恐らく不可能だ。となると残された脱出法など無いだろう」 私がそこまで一息で言い切ると、幸村君は「え?」ととぼけた表情を向けて来た。そして、 「飛び降りれば良いだけじゃん」 「アホか君は」 そんな事を言って来た。アホだ、アホすぎる、いくら2階とはいえそれなりの高さがあるというのに。私が呆れて室内に戻ろうとすると、複数の声で田代!、と名前を呼ばれた。仕方ないからもう一度下を見る。 「…は」 「田代、来るのだ!しかと受け止めてやろう!」 「お前が怪我をする確率は極めて低い、むしろ無い。安心しろ」 「そうだよ、せっかく俺達三強が直々に受け止めてあげるんだから早く来なよね」 開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう。下には、腕を広げ私が飛び降りるのを待っている真田君、柳君、幸村君がいる。 「田代ー、俺…俺ら、お前の事大好きだからぁあ!」 「は、早く降りてきんしゃい!」 何か知らないけど丸井君と仁王君は泣きそうだし。 「このままでは先生に見つかってしまいます。田代さん、どうか迅速な対応を」 「…すまねぇな田代」 やはり偽紳士なのだな柳生君は。桑原君に至っては何の問題も無い。 「何故、そこまでして」 「決まってるじゃん、お前がいた方が面白いからだよ」 「私を君達のエゴに使うな」 「…あぁ、もう。田代ってばほんとえっち、俺に何言わすのさ」 「だから何がだ」 最後に改めて幸村君はそう言うと目を細めて笑い、またその減らず口を開いた。 「お前がいた方が、楽しいの」 私がいれば、楽しい?そんな事今まで一度も言われた事が無い。ただ寡黙と無関心を決め込み、誰にも深入りすること無く日々を過ごしている私に、楽しさの要素など皆無なはずなのに。 「…やっぱり、嫌だ」 ぼそっと呟いた言葉を聞き取り、クラスメイト2人は何故か涙ぐむ。…やっぱり、本当に、 「受け止めてくれるのは、桑原君じゃないと嫌だ」 ───変な人達だ。 |