ドラマチックメランコリア

全国大会の熱も冷めぬまま、立海は先日始業式を終えた。そろそろ休みボケも抜けて日常が戻りつつある頃、それは起こった。





───今日は朝から変だった。

仁王君と丸井君が付き纏ってくるのはいつものことなのに何故かそれが無性に苛ついたり、意味も無く憔悴に駆られたり、とりあえず自分でも驚くくらい感情の起伏が激しい。こんな自分は体験したことがないゆえに病気にでもかかったんじゃないかと本気で考えた。



「田代ー」

「うるさい黙れ」

「あーあーいじけんなよ仁王。っつーかマジでどうしたんだよ、今日いつもに増して冷たいぜぃ?」

「知るか」



原因がわかっていればとっくのとうに問題は解決している。それがわからないからこんなにもじれったい想いをしているのだ。2人よりも私の方が意味の分からない、苛立つ想いをしているというのに。



「トイレ」

「次の授業はー?」

「気が向いたら」



行ってらー、と手をひらひらさせながら言ってきた丸井君。一瞬返事をしようか考えたが、話す事すら億劫でやめた。

そういえば感情の起伏だけでなく体調も悪い。風邪か?体がだるいと必然的に機嫌も悪くなる(私的にだが)。しかし風邪を引くと決まって起こる頭痛や喉の痛みは特に起こっていない。代わりにお腹が痛い。あ、痛い。



「(便秘、でもないしな)」



とりあえず用を足すためにスカートのホックを外し、パンツを下げ、便座に座る(生々しいな)。頭は痛くは無いがなんだかボーッとする。意味も無く天井を見上げ、どうしてこうなってしまったのか、と改めて考える。



「(授業に出るべきか、出ないか)」



そんな事を考えているうちに用を足し終え、私はトイレットペーパーを手に取る為に天井から視線を外した。

そう、外したのだ。



「…え」



どれくらいの間が空いたかわからないほど硬直し、やっと出た言葉はその一言だった。

なんだこれは。なんなんだ。まさか、この歳で?

目の前の光景に軽くショックを受けつつも、このままずっとトイレの個室にこもっている訳にはいかない。そう思った私はとりあえず水を流し、手を洗い、廊下に出た。体が重くだるい。



「田代?どうしたんだそんな顔色を悪くして」



声が聞こえる。その声の方向に従って上を向くと、そこには柳君がいた。これから移動教室なのか、彼のクラスとは逆方向に歩みを進めている。



「どうした?本当におかしいぞ?」



柳君の心配そうな表情なんて初めて見た。って、そんなことはどうでもいい。…少し言うのは気が引けるが、彼ならなんでも知ってそうだ。もしかしたら適切な処置を教えてくれるかもしれない。

そうして私は重い口を開き、意を決して彼を呼びかけた。完全にそうと決まった訳じゃないが、私の中の推測はこれだ。聞いてくれ柳君。



「柳君」

「なんだ?」

「切れ痔になった」
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