呆れるほど、鮮やかに

「───っしゃあぁあ!!」



拳を高く上げて、大声を出しながらのガッツポーズ。普段の彼、幸村君から繰り出されることはないであろうそれらに、全校生徒は大いに沸き上がった。



「…おめでとう」



そして私も人知れず、小さくではあるが、ガッツポーズをした。

立海テニス部は、2年連続の全国優勝を果たした。



***



「晴香せんぱーいっ!!」

「うっ」



全国大会決勝。夏休み中にも関わらず立海の応援席にはたくさんの生徒が来ていて、そのせいか試合終了後の応援席は凄く静かに感じる。まぁ、皆帰ったから当たり前なのだが。

勿論私もすぐに帰ろうとした。むしろ去年は全くテニス部に興味が無かった私が(いや別に今も興味がある訳ではないが)今年は最後まで試合を見ていたんだ、それだけで充分だろう。

でも、そんな私の想いは幸村君には届かなかったみたいだ。彼からのメールのせいで私は未だにこの応援席に佇んでいるのである。



「ちゃんと残っててくれたんだね、田代」

「あんなメールを寄越されては帰れるはずがないだろう」

「なんだかんだ可愛いんだから」



だって「田代、待っててね。俺勝ったから」なんてメールが来たんだから仕方ないじゃないか。自分の勝利を使うなどなんと狡賢い。それに素直に従う私も私だが。



「で、なんのために私は待たされたんだ。こういう日は先輩達とどこか行ったりするもんじゃないのか」

「送別会は今日じゃないから。それより田代、直接言ってほしい言葉があるんだけどな」

「田代、俺も是非聞きたいところだ」



今回試合に出たのは幸村君、柳君、真田君の3人だ。真田君は別として、後の2人は楽しそうな笑みを口元に浮かべながら私に詰め寄ってくる。後ろでは仁王君と丸井君が笑ってて、柳生君と桑原君は溜息を吐いてる。真田君は私に未だ引っ付いている切原君を剥がそうとしてる(邪魔)。…本当に、なんという人達だ。



「…優勝、おめでとう。」

「わー田代ってば照れてるー!可愛いー!」

「ぐえっ!」「ぐふっ!」



私がそう言った途端、一瞬で切原君と真田君が離れたかと思えば今度は幸村君が抱きついてきた。神の子パワーはとんでもないな。幸村君の肩越しに見える柳君は何やら凄まじいスピードでノートを書いてるし。とりあえずもうどうでもいいから桑原君助けてくれ。そんな想いで幸村君の抱擁に応える。



「俺、来年も絶対勝ってみせるから」

「…あぁ」

「立海三連覇に、死角はない」

「知ってる」

「また俺の真似してガッツポーズしてよね、田代」

「…仕方ないな」



まさか見られていたとは。…流石に恥ずかしい。でもその照れを見せたくない私は、幸村君の背中をグーでポン、と叩いた。それを合図に幸村君は私から離れ、いつもとは違う(なんて本人に言ったら怒られそうだが)清々しい笑顔を私に向けてきた。



「じゃ、焼肉行くよ」

「待ってましたー!さっすが幸村君!」

「肉ー肉ー」

「仁王君、重い」



そして、どうやらこの人達はこれから焼肉に行くらしい。ならば私は早く帰ろう、そう思い歩き出したのだが、それと同時に仁王君が覆い被さってきた。重い暑い苦しい。



「え?晴香先輩何帰ろうとしてるんすか?」

「は?」

「そうだよ、何してんの。お前も一緒に決まってるでしょ。真田、田代捕まえといて」

「いやちょっと待て」

「むん!」

「首根っこを掴むな!」



ちょっと待てなんだこの展開は。現在進行形で真田君に首根っこを掴まれ引きずられているんだがどうなってるんだ、殴り飛ばすぞこの人。



「田代…たくさん食おうな」

「…あぁ」



…哀れみの言葉を投げてくる桑原君だけが唯一の救いだ。試合中の威厳など何処かに投げ捨てたようにはしゃぐこの人達を、恨めしい視線で見つめる。こうなったら海の日以上に食べまくってやる、勿論私はお金出さないぞ真田君の奢りだ。
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