「ニャー!」 「(…可愛い)」 「じゃあ晴香ちゃん、ゆっくりしてってな」 「ありがとうございます」 あれから歩いて、白石家には割とすぐに到着した。でかいし綺麗だし豪華だ。客間っぽい所では田代家と白石家の父母が会話を弾ませているであろう今、私は1人リビングでこの家の愛猫と戯れている。毛並みが凄く綺麗だ。しかも可愛い。 「ヨガ…?」 そこでなにげなく視線をテレビの方に移すと、テレビ台にはヨガのDVDが置いてあった。白石母は凄く綺麗な方だったし、こうやって体型を維持しているのだろうか。私には到底真似できないなぁ。3日で飽きるどころか、そもそもやる気さえ起きない。他にも辺りを見渡してみると、ヨガグッズ以外にもあらゆる健康グッズが置かれていた。健康ランドさながらだ。 「ニャア!」 「わかった、構うから」 すると、私がグッズに気を取られてるのが気にくわなかったのか、猫がその小さな前足を使って私の足を引っ掻いてきた。今日はショートパンツで生足だから中々痛い。でも、可愛いから許す。 猫じゃらしを片手に縁側に座り、隣でごろごろと体をよじらせる猫の相手をする。差し掛かってくる陽は少し暑いくらいだが、この空間のおかげかそれも苦に感じない。静かで、穏やかで、落ち着く。 だがしかし、暇だ。 「…寝よう」 そんな場合は寝るしかない。この法則が頭の中に浮上した私はそのまま倒れ込み、鳴き続ける猫を今だけはスルーして目を閉じた。あ、お腹の上に猫乗ってきた。 *** 「で、そのままそのドリンク達を米俵のごとく持ち上げたんや!ごっつ細腕の女の子がやで!?」 「先輩それ話盛りすぎちゃいます?おもんないっすわ」 「いやほんまやって!!」 「ユウくんどう思うー?」 「嘘くさいなぁ」 「ほーんーまー!!」 謙也のうっさい話し声に苦笑しながら、いつもよりも賑やかな帰り道を歩く。こいつらは今からこのまま、俺んちに来る事になっとる。 この前全国ベスト4まで行って、先輩達の夏は終わった。せやから今度は俺らの時代や。その前に景気付けにうちでたこ焼きでもするかーっちゅー事で、こない大勢でぞろぞろ歩いとるという訳や。 「白石はん、こない大勢で行って大丈夫なんか?」 「まー台所は無理やけどリビングなら大丈夫や。心配ありがとな、銀さん」 財前、謙也、ユウジ、小春が後ろで騒いどる中、俺と銀さんは適当に雑談をしとった。唯一の常識人に感謝やなーとか思っとるうちにあっという間に家の前まで着いて、初めて目にするうちに反応しまくるこいつらにまた苦笑する。どんだけ騒いどんねん、そない大層な家ちゃうわ。 「(?なんか靴多いなぁ、誰か来とるんやろか)ただいまー」 そうして家に入ると、玄関に見慣れへん靴が何足かある事に気付いた。まぁ、友達が多いおとんとおかんが家に人を呼ぶのは珍しい事ちゃうし、とりあえず疑問を晴らすよりも前にただいまの挨拶をする。あー勝手に入んなやこいつらー。 「たこ焼き器持ってくるから、リビングで待っとって。曲がったとこにあるからな」 「手伝うで」 「おぉ、おおきにー助かるわ」 あちこちに視線を向けるこいつらにそう促して、俺と銀さんは台所に足を運ぶ。近くの客間から声が聞こえたからそのドアを開けると、そこにはおとんとおかんと、知らん男の人と女の人がおった。年齢的にはおとん達と同じくらいやろか? 「蔵ノ介おかえり。お友達?」 「お邪魔します、同じ部活の石田です」 「おぉ、いらっしゃい!」 「おとん、おかん、まだ他にも来とるんやけどうるさいからリビングにぶち込んどいたわ。今日たこ焼きパーティーやるから」 「あら、それじゃあ晴香ちゃんも一緒にやったらいいんじゃない?」 晴香ちゃん?誰やそれ。急に知らん名前が出た事で俺は首を傾げざるを得なく、改めておかんにそれが誰か聞こうと口を開いた。 「おかん、それだ「あぁあああぁーー!!」…謙也…」 が、聞こうとする前に謙也の叫び声で言葉を遮られてしもた。どんだけ叫んどんねんあいつ。 「でもえぇんか?部活仲間やろ?晴香いたら邪魔ちゃう?」 「そうですよ、あの子結構無愛想だし…」 「どうってことあらへんて!ほな蔵ノ介、頼むで?」 「だから誰やねんその晴香ちゃんて」 「あ、ごめんなぁ遅れて。俺田代言うて、蔵ノ介君のお父さんの同級生やねん。で、晴香っちゅーのは俺の娘。仲良くしてくれるー?」 そこでようやく疑問が晴れた所で、なんやそんな事かい、と拍子抜けする。それならそうと早く言ってくれればえぇんに、おとんもおかんも言葉足らずやなぁ。 それからもっかい田代夫妻に挨拶をして、俺と銀さんはその場を後にした。謙也の叫び声の原因も気になるし、さっさと用意してリビング行かなあかんなぁ。ちゅーか、晴香ちゃんいくつなんやろー。…あれ、もしかして叫びの原因て晴香ちゃんかな? |