「よくやるなぁ」 「田代、それはさすがにアウトだよ」 「ん?」 焼肉争奪戦が終わって、休息も束の間のまま皆はまた練習を始めた。海に入ってひたすら泳いでる皆の姿をつまようじをくわえながら見てると、いつの間にか隣に来た幸村君にそう話しかけられる。この人なんも特訓してないけど大丈夫なのか? 「俺は陰の努力家だから」 「自分で言ってしまったら陰じゃなくなると思うが。というかサラッと心を読むな」 「何事も寛大な心が大事だよ、田代」 …もういいか。 それにしても、あれだけ食べた後にこんなに激しい運動をするなんて、凄いと言って良いのか健康に良くないとつっこんでいいのかよくわからない。でも、純粋にこの体力と気力は凄いと思うから、ここばかりは感心せざるを得ない。普段は全くしないが。 「田代って不思議だよね」 「何がだ?」 私がいそいそと焼肉が終わった後に買ったアイスの袋を開けていると、ふいに幸村君はそんなことを言ってきた。不思議、って。私から見ればこのメンバーの方が不思議でたまらないのに。 「そんなに細いのに今もまたアイス食べちゃうほど大食いだし、馬鹿力だし、何より中学生とは思えないほど落ち着いてるし」 「へぇ」 何やら私のことを語っているようだが、客観的に見た自分など別に興味はない。だから私は目の前のジャリジャリ君を食べるのにほとんどの意識を向け、幸村君の言葉はもはや聞き流し状態だった。 「でも、そんな田代だから良いんだろうね」 「…」 「これからもよろしく、おもちゃ」 「やはりそうなるか」 一瞬でも真剣な声色だったからといって真面目に受け入れた私が馬鹿だった。そうだ、この人はそういう人だ。 「晴香先輩も一緒に泳ぎましょー!!」 「赤也っ!特訓中は口を慎まんか!」 「おーい田代ー!泳ごうぜぃ!」 すると、海の方から次はそんな声が聞こえてきた。泳ごうだと?絶対嫌だ。そもそも私は着替えも水着も持ってきてないし、入れるはずがない。普通に考えて無理だと判断しこの場に居座り続けようとしたが、それを阻むように幸村君がまた楽しそうな表情で話しかけてきた。 「着替えならあるから行ってきたら?」 「は?」 「田代が着替えてる間適当な服突っ込んどいたよ」 「なんてことを」 女のクローゼットを無断で開けたということか?…帰ったら鍵をつけよう。 「ほら、早く行かないとうるさいよあいつら」 「…幸村君もだ」 「え?」 「ここまで私を振り回しておいて君が来ないのは筋が通ってない。だから、強制連行」 「、ちょ!」 幸村君の珍しく焦る顔はお構いなしに、私は彼の腕を無理矢理引っ張り海まで走った。後ろで馬鹿力、痛いよ!、と叫ばれたが気にしない。そして皆のすぐ側まで着くと、なぜか全員(柳君以外)が青ざめて私達の方を見ている。何事だ。 「何顔を青くしてるんだ?」 「お、おまん…後ろ…!」 「後ろ?」 「田代、良い度胸だね俺をその馬鹿力で振り回すなんて」 仁王君の声で後ろを振り向こうと思ったが、その前にえらくドスの利いた声が耳に入る。全員冷や汗ダラダラだ。うん、これは 「、うわっ!」 さすがにやばい。 「特訓再開だ!勿論田代もね」 「そんな馬鹿な」 完全に不機嫌モードに入った幸村君は、まず手始めに私の背中を思いっきり突き飛ばしてきた。そして次に、どこから取り出したのか本当に謎な巨大水鉄砲を全員にくらわせてくる。鬼畜極まりない。 「ギャーー!!幸村君、ちょっ!田代謝れお前ぇぇえぇ!」 「やだ」 「意地っ張りには更にお仕置きだねー」 私の発言が更に拍車をかけてしまったのか、それから特訓終了までの約2時間、その場にはたくさんの悲鳴が飛び上がった。今日学んだ教訓、幸村君にはやっぱり近付かない方が良い。 |