「田代、俺クリケット優勝したんだ。しかも得点稼いだの全部俺!凄くない?褒めてー」

「あぁ凄い凄い」

「俺もサッカー優勝したっす!先輩褒めてー!」

「あぁ凄い凄い」



第2体育館に着くと、まだ試合開始前だというのにそこは熱気と歓声で溢れていた。入ってすぐの場所には幸村君と柳君、そして2人に挟まれ子供のようにはしゃいでいる切原君がいて、嫌々ながらも私と桑原君はその3人と試合観戦をすることに(本当に嫌だ)。



「仁王よ、お前のそのだらけた根性を叩き直してやるわ!!」

「真田怖…俺出とうない」

「今更何言ってんだよぃ!」

「仁王君、貴方が勝てばテニス部に編入部してもいいですよ?」

「…やっちゃる」



体育館のど真ん中で交わされている会話を聞きながら、それはあまりに安易ではないか、と思わず首を傾げる。部活をそんな容易く決めて良いのか。



「ま、どっちにしろ柳生はほぼ編入部決定だったしね。気にすること無いよ田代」

「口に出していないんだがなぜ君が答えられるんだ」

「顔に書いてあるよ。それに、俺と田代の仲じゃない?」



無視だ、無視。

そして両クラスが挨拶を交わし、ジャンプボールから試合は始まった。A組は真田君、うちのクラスは仁王君がするみたいだ。え、仁王君?



「ほう、仁王がジャンプボールをするとは予想外だな」

「仁王先輩今までやる気なかったのに出来るんスかー?」

「あいつは本気出せばかなり出来るからな。柳生の言葉で火がついたんじゃないか?」



桑原君の言葉でそういうことか、と1人で納得する。それにしても、仁王君は意外と素直というか扱いやすいことがわかって、これからその部分を利用していってやろうと目論んだのは私だけの秘密だ。



「いけーー!!!」



放たれたボール、丸井君の声。ボールに触れたのは真田君で、彼は得意気にドリブルをついた。



「むっ、何!?」

「甘いぜよ!」



でも仁王君はそんな真田君からすぐにボールを取り、いつもの彼からは想像もつかないような鋭い動きを披露した。その俊敏な動きと鮮やかな立ち回りにギャラリーはひたすら歓声を上げ、女子の耳に突き刺さるような悲鳴が耳にダイレクトに入ってくる。うわあぁぁあうるさ。



「柳君、この歓声の大きさはどうにかならないのか」

「決勝、しかもテニス部が3人も出ていれば仕方あるまい」

「うるさくて仕方ない」

「ならば俺がこうしててやる」



それについての不満を淡々とぶちまければ、柳君は私の真後ろに立ち、私の両耳を自身の両手で塞いできた。お、結構な遮音効果だ。ありがとう柳君。

そんな状態で試合を観戦しながら、別にどっちが勝ってもいいんだが、というかなり他人事な意見を心の中で呟く。青春漫画さながらの白熱した試合を見せる彼らだが、どうも私の気持ちは盛り上がりそうに無かった。あ、柳生君転んだ。



***



───試合経過から、9分57秒。



「丸井先輩ぃいいぃ!!!」

「───うおっっしゃああぁああぁ!!!」



切原君の叫び声と共にボールは綺麗にゴールに入り、そして同時にブザーが鳴った。これは噂のブザービートというものだろうか。一気に丸井君に駆け寄るうちのクラスの男子達に、沸きあがる歓声、悲鳴。

試合終了、2年B組は優勝した。



「良かったな田代」

「うわ、」



その途端柳君の両手が離れていったものだから、私は再び耳に入って来た歓声に思わず肩をびくつかせた。唐突な行動を不快に思い柳君を軽く睨むが、彼はつらっとした顔で目の前の光景を見ているばかりだ。だから、私も諦めて視線を逸らす。



「…あれ、切原君は」

「ブン太の所に行ったよ。見てごらん、2年の間にちゃっかり紛れてる」



そこで幸村君に言われるがままに視線を再度向けてみると、確かにさっきまで隣にいた切原君がちゃっかり丸井君の隣にぴったりとくっついていた。まるで兄弟みたいだ。



「あいつ、ブン太にはかなり懐いてるからな」

「ふふ、そうだね。ブン太も可愛がってるみたいだし」

「うちの部のトラブルメーカーと言った所だな」



3人の言葉が耳に入るが、その会話に入る気は無いのでただただ適当に聞き流す。が、しばらくそうして暇潰しがてらに切原君達を見ていると、彼らはテンションが上がりに上がっているのか急に胴上げをし始めた。



「「田代ー!」」

「晴香先輩ー!」



と思えば次は、丸井君、仁王君、切原君に大声で名前を叫ばれる。生徒達の視線が一気に私に集中するのを嫌でも感じて、今すぐに3人を殴りたい衝動に駆られた。



「勝ったぜぃ!!」



だからなんだ。それがどうした。丸井君の言葉にはそんな返ししか思い浮かばないのに、対照的に3人は勢いよくピースサインを私に向けて来た。くしゃくしゃの笑顔で、歯を剥きだしにして。



「…そうか」



別に感動したわけではない(悔しがってる真田君と柳生君の姿は結構嬉しいが)。元より特別応援していたわけでも、優勝を祈願していたわけでもなかったから。でも、3人の笑顔はそれとは別物だと思ったのに間違いはない。

…おかしな人達だ。

相変わらずにこにこと笑ってくる3人に対し、思わず小さな笑みが自然ともれる。しかしその途端、3人の表情は見事なアホ面へと化した。



「田代、お前…」

「…なんだ?」



隣に立っていた幸村君も同様の反応を示す。柳君は凄まじいスピードでノート書いてるし、桑原君は「あーあ」と言って笑ってるし。一体なんなんだ?なんだか凄まじい足音も聞こえ…え、足音?



「っ、うわっ!?」

「晴香先輩ぃい!大好きっすまじで!」

「勝利の女神だぜぃお前!」

「田代ー田代ー」

「な、なんなんだ」



気づいた時には3人は私のすぐ傍まで来ていて、さっきまで体育館中心部にいたというのにどういうことだ、と柄にもなく動揺する。しかもあろうことかそのまま抱きついてきた。暑い無理苦しい。

…本当に、厄介な人達だ。



「可愛いね、田代」

「そうだな」



だから私は気付かなかった。3人の相手をするのに夢中で、幸村君と柳君がそんな会話をしていたことを。



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※赤也はまだ1年生なので公式のD組ではありません。そしてクリケットのルールは本当に無知ですすみません。
 5/5 

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