「おい、仁王!」

「っと!なんじゃ、ブン」

「なんじゃ、じゃねぇよ!お前補欠だろぃ?バスケ1人足んねぇんだよ向井休みだから!」

「…ゲ」



次に私が審判を行う、1年サッカー会場であるグラウンドに行こうとしたら、丸井君は急にそう言って嫌がる仁王君を無理矢理引っ張って行った。

ちなみに言わなくてもわかると思うが、先程の試合は当たり前のように幸村君のクラスが勝った。勝った瞬間の幸村君の誇らしげな表情と、自慢げな口調は今思い出してもイライラする。ということはおいといて。



「やだー俺田代といたいー!」

「俺だってそうだっつーの!でも補欠に名前書いてあんだから出ろ!」

「やだー!!」



段々遠ざかって行く2人の口喧嘩を聞いて、私は1人安堵の溜息を吐いた。これで邪魔者がいなくなった、1人でリラックスできる。



「田代か」



しかし、そう思ったのも束の間。今度は前方からデータノートを持った柳君が近付いてきたのである。ガタ落ちしたテンションからは当分抜け出せる気がしない。



「田代は実行委員だったな」

「何故知っている?」

「俺のデータに抜かりはない」



もうツッコむのも面倒だ。



「これから田代が審判をするのは1Eと1Fの男子サッカーで間違いないな?」

「だから何故、…あぁ、そうだ」



柳君には何も言及しないのが1番なのだろう。そう思った私はウンザリ、という感情を全面に出して彼の質問に答えた。すると彼はデータ通りだったのが嬉しいのか、少し口元を緩めてやはりな、と言った。



「1Fには赤也が在籍している」

「え」

「俺も見に行く。いいな?」

「試合は無いのか」

「あぁ、後は他の奴らに任せる。いいな?」

「…勝手にしてくれ」



どうせ断っても着いてくるんだ、何か言うだけ無駄だろう。

という流れで、せっかく仁王君がいなくなったというのに次は柳君と一緒にいるハメになってしまった。無念すぎる。



***



「晴香せんっぱあぁあい!!」

「うわ、」



そうしてグラウンドに着くなり、切原君は私の姿を見つけると唐突にいつものタックルをかましてきた。非常に痛い。



「赤也、もう少し力を緩めて抱きついたらどうだ」

「そういう問題じゃないだろう」



そもそも抱きつく(タックル)こと自体が間違っているというのに、それを肯定してどうする柳君。



「じゃあ次からはやさしーく先輩に抱きつきますね!」

「いやいい」



ほら見ろ、切原君は素直すぎるがゆえにすぐに君の言葉を受け止めてしまったじゃないか。的外れにも程がある。



「じゃあ行ってきまーす!」

「はいはい」



しばらくして切原君は満足したのか、手をぶんぶんと振りながらグラウンド中心部へ駆けて行った。柳君はそんな彼の姿を見て元気だな、と薄く笑う。

そういえばここ最近、切原君はよく柳君達2年テニス部の間に入って楽しそうにしているな。柳君もこの前まで切原と呼んでいたのにいつの間にか名前呼びになっている。



「(…って、とんでもなくどうでもいいことを考えてしまった)」

「田代?」

「なんでもない」



柳君に心を読まれてしまっては厄介だ、そう思った私はすぐに審判に集中するフリをした。



「田代」

「なんだ」

「名前で呼んで欲しいのか?」

「意味が分からない」



一体どこからそんな自信過剰な考えが沸いたのか、私には検討もつかない。しかしグラウンドでは試合中だというのに構わず私の名前を叫び続けている切原君の姿があって、とんでもなくやるせない気持ちになった。もうやだこの人達。
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