「やぁ田代、俺の応援に来てくれるなんて嬉しいよ!」

「ただの審判なんだが」

「そんな照れないで?」

「照れてない」



丸井君の試合を見終わってから約15分後、私は第2グラウンドにて行われる2A対2Cの男子クリケットの審判に来た(ちなみに丸井君は勝った)。

審判席に着くなり早々とやって来たのは、相変わらず胡散臭い笑顔を振りまいている幸村君だ。周りの視線も痛いし、迷惑極まりない。



「相手チームには真田と柳生がいるんだ、君の天敵の」

「…そうだな」

「そうとなれば勿論応援するのは俺でしょ?」

「別にどっちも応援する気はない」

「えー」



頬を膨らまし、口を尖らせながら不服を全面に出す幸村君。結局ずっと後ろを着いてくる仁王君は、それを見て幸村かわいー、などと言っている。どうやら仁王君の目は節穴らしい。

そんな私の意図を読んだのか、幸村君は顔を覗き込んでなんか言いたい事あるの?と聞いてきた。それに対し私は何も答えず、審判の仕事に集中するフリをして彼の傍を離れる。



「もー、田代ってば仕方ないなぁ」



仕方ないなどと言われる筋合いは全く無いのだが、幸村君に筋を通せという方が無謀な気がするから深く追求しないでおくことにした。それが1番無難だ。



「仁王君、そこはもう1人の審判席だ。1年生が困っているだろう」

「えぇの、テニス部の後輩じゃから。なー?」

「は、はいっ!仁王先輩!」

「厄介な先輩を持ったな、君も」

「い、いえ…あはは…」



すると、次に厄介なのは仁王君だ。私の隣に堂々と座っている彼に注意を促せば、仁王君の後輩、という1年の男子は酷く困惑しながら苦笑をもらした。上下関係というものはなんでもありだな。職権乱用みたいだ。

そんなことを思っているうちに、大きな笛の音で試合開始の合図が出された。審判のすべきことはただ単に点数を加算していくことだけ。ちなみに私が2C、幸村君のクラス担当で、1年男子が2A担当となっている。正直どっちが勝っても別にどうでもいい。



「どうでもよさそうな顔しとるのぉ」

「本当にどうでもいいもん」

「おー、ひど!」

「それより丸井君は?なんで君は私にそんな着いてくるんだ?」

「ブンは全種目出るから忙しいなり。着いてきとんのはさっき約束したから!」

「あ、そ」



可愛く言ったつもりなのか?…別に邪魔さえしてこなければいいか。いつ約束したのか疑問だが、もうなんかどうでもいい。なんでもいい。



「田代ーかまってー」

「どっか行ってくれ」



…なんて、そんな訳にはいかないのだが。



「───…ハッ!!」



私が仁王君のちょっかいをスルーし続けていると、ふいに幸村君の物凄い意気込んだ声が耳に入って来た。その途端に宙を舞うボール。クリケットのルールは全く知らないが、なんとなく野球に似てるということはわかる。ということはこれは、



「…ホームラン?」

「さすがじゃ幸村、初っ端から飛ばしてるぜよ」



どうやら得点が入ったようだ。先生が指を4本立てて私に向けている。…一気に4点も加点されるのか?うわ、本当にルールが読めない。謎に包まれてるな、クリケット。



「田代ー!お前のために勝ってあげるよ!」



しかもあろうことか、幸村君は大声でバッドを私に向けながらそんなことを言ってきた。突如上がる女子達の悲鳴。幸村君なんて負けてしまえばいい、と心の底から思った。
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